FILE:002 魔法少女まどか☆マギカ

評価:★★★★★(90)

TITLE 魔法少女まどか☆マギカ
DATA 2011年

 

◆あらすじ

 

どんな願い事でも叶えてあげる。だから僕と契約して魔法少女になってよ。
猫のような、うさぎのような謎の生物『キュウべえ』は少女にそう問いかける。

人類の敵とされる『魔女』を倒せるのは、魔法少女だけ。

それぞれの少女たちが、それぞれの願いと決意を持って魔法少女となり、死と隣合わせの苛烈な闘いへと赴いていく。

そこに待ち受ける、最大の悲劇を阻止するために……。

 

引用元『魔法少女まどか☆マギカ』公式サイト

◆オッサンは苦悩する。

まず最初に言っておくと、文句なく最上級のアニメーション作品であることに間違いない。

だが、この作品を観るにあたって、かなりの葛藤があったことを記載しておこう。

 

つまり、こういうことだ。

 

「オッサンがこの可愛い絵面の、しかも魔法少女と題されている作品を観てもよいものかどうか」

 

という、アラフォー・オタクならば誰もが一度は考えてしまう宿命論的命題としての葛藤である。

 

『ひだまりスケッチ』の作者・蒼樹うめによる、愛らしい登場人物の面々。がっちり少女向けなキャラデザである。

 

 

なんというか、

「え? ちょっとキツくない?」

と内なる自分が囁いてくるのだ。

 

 

 

本編を観るまで、内容についてのレビューやwikiを一切見ないのがアニシエ流の視聴スタイルである。

レビューやwikiは、あくまで視聴後の情報補足源として見ることにしている。

 

しかし、若い頃から習慣的に時間があれば用もなく秋葉原を散歩することを趣味としているおかげで、そのときどきに何が話題になっているのか、ということについてはなんとなく察知することができる。

 

『まどか☆マギカ』についても、放映当時は秋葉原の様々な店舗でグッズが山盛り展開していた。

 

なので、内容の善し悪しは分からないが、相当な話題にはなっているんだな、ということは理解していた。

 

今でもパチンコやら音ゲーの楽曲キャンペーンやらで、散発的にメディア展開しているほどに、世間での(少なくとも各ジャンルのオタクからの)認知度は高い。

 

しかし、やはりあの愛らしい絵面がネックになる。

 

もともと、昭和のロボットアニメがアニシエのアニメオタクとしての原点である。当時のキャラクターは、どれほど美人であろうと、どちらかといえば劇画調である。

 

ましてや『ガンダム』に登場するキャラクターなんてものは、そのほとんどがむさ苦しい男だらけである。

 

抵抗がない方がおかしいじゃないか。

 

とはいえ、アニシエが子供の頃にも少女が主人公であるアニメはたくさんあった。

 

『魔女っ子メグちゃん』『ひみつのアッコちゃん』『魔法使いサリー』などなど。

 

これらは『ガンダム』と同じく再放送枠の中で何度も放送されていたし、内容までは覚えていないが、それなりに観ていた記憶もある。

 

それにしたって……

 

 

段階的に見慣れていないと、このギャップに対する耐性は培われないのだろう。

そんなこんなでズルズルと視聴する時期を見失いかけていたが、やはりどこか心の片隅に引っ掛かるものを感じていた。

 

たぶん、観たほうがいい。

 

アニメ好きなら誰しもが経験する、根拠なきゴーストの囁き。
自分の不得手とするジャンルだけど、なぜか妙に気にかかる。

 

そんな作品が誰しも、ひとつやふたつ存在するはずだ。

 

アニシエにとって『まどか☆マギカ』はまさに、そんな気になる作品のひとつであった。

 

 

◆『魔法少女』の概念が崩される快感。

一度でも観てしまえば、この作品が他の『魔法少女』とはまったく異質な(そしてかなり残酷な)

ダークファンタジーであることに驚かされるはずだ。

 

そして、その残酷な契約の代償は、それを天秤にかけて悩むほどに魅力的な力がある。

 

傍観か、救いか……あるいは呪いとなるか……。

 

それは契約を交わした、それぞれの魔法少女のその後に委ねられる。

 

第一話から丁寧に張り巡らされていく伏線の、見事な回収。

 

しかしそれは、実のところ、因数分解していくと、とくに真新しい要素というわけではない。

 

異星生物、タイムリープ、願いの原点回帰。

どれもが決して斬新なテーマではないのだが、それらを巧みに統合して、見事な表現方法の確立に成功しているというのは、物語に携わるスタッフが『本物」である証だ。

 

また、映像についても同様のことが言える。

 

『魔女』と呼ばれる(ラヴクラフト風に言えば)名状しがたき存在との戦いは、そのデザイン性と迫力のある映像の、どちらにもセンスの良さが光る。

 

シャフトならではの、平面を主体として立体的な挙動を描く作画技法の、ひとつの集大成ではないだろうか。

 

本作の敵である『魔女』のような、言語化が困難なビジュアルを構築することこそ、本来『映像』として表現するべきデザインなのだ。

 

お気楽&おとぼけドタバタ魔女っ娘ファンタジーだと勘違いして観ると、かなり手ひどいしっぺ返しを喰らう作品である。

 

だが、この世界観に一度でも触れてしまうと、当初の『魔法少女』への先入観など一瞬で吹き飛ばされて、観終わるまでそんなことを思い出させないほどスリリングな展開が次々と起こっていく。

 

魔法少女であって魔法少女ではない。

 

絵面のせいで抵抗していたことなどすっかり忘れきって、アニシエも最終話まで一気に視聴してしまった。

◆総評として。

小気味良いギャップ、魅力的なミスマッチ。

 

『化物語』を手掛けた新房昭之監督によって、この2つの歯車が無数に折り重なり、精密な細工時計のように、数奇にして神秘的なストーリーを描き出している。

 

ヒロインはまず、

「ごく普通に考えて契約しないよね」

という誰しもが感じるようなリアリスティックな視点からはじまり、しかし、その普通が揺らぎ始めるとともに、彼女こそ世界の崩壊と安寧を左右する存在にまでに成りうるという(先天性ではない)救世主として、必然性をもって究極の魔法少女へと変貌していく。

 

だが、そこには本来普遍的にあるような世界を守る戦い、などという尊大なテーマはない。

 

あるのはただ、自分の友だちを守りたいという心からの願いだけなのである。

そして、そんな少女たちと対をなす存在が『キュウべえ』である。

 

愛くるしさの中に怖さが垣間見える俊逸のデザイン。

 

その風貌とは裏腹に、残酷なほどの利己的な生存本能をもった、

人類とは決して分かり合うことができない存在。

 

だがそれは(キュウべえという存在の、種としての)遺伝学的・生物学的に考えると、理に適った生き方でもある。

 

自然界、つまりこの世の中とは常に残酷で利己的な生物たちの生存闘争であることを暗に示しているのかもしれない。

 

少女の感情というものを理解した上で(でなければ魔女は作れない)、キュウべえは己の生存本能に従い生きていく。

 

安っぽいヒューマニズムなど、さらさら描く気がない、といわんばかりに、最終的に少女とキュウべえとの間には、真の和解が成立せずに終わりを告げる。

 

少女の願いか、あるいは利己的な自然の摂理か……。

 

結末はぜひご自身で確認していただきたい。

 

物語を安直で不自然な清潔感で汚すことなく収束させているという点が、何よりも好評価である。

 

観ようかどうしようか迷っている方には、自信を持って背中を押して「観たほうがいい」と言える秀作である。

※注釈※
鬱展開が苦手な人には、きついかもしれません。

 

 


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