FILE:034 重戦機エルガイム

評価:★★★(50)

TITLE 重戦機エルガイム(じゅうせんきエルガイム)
DATA 1984年
STORIES 全54話

 

◆あらすじ。

 二重太陽サンズを取り巻く5つの惑星からなる太陽系ペンタゴナ・ワールド。その辺境にある惑星コアムに青雲の志を胸に故郷を旅立った若者2人、ダバ・マイロードとミラウー・キャオがいた。
 支配者ポセイダルによって治められているもののペンタゴナ・ワールドの政治は腐敗しており、各地では反乱軍が決起し戦乱が絶えなかった。ダバたちは元盗賊団のファンネリア・アムや、同様に青雲の志に燃えるギャブレット・ギャブレーと出会い、あるいは衝突しながら、ペンタゴナ・ワールドの実態を知るようになる。
 ヘビーメタル・エルガイムを駆り、ポセイダル軍と戦うダバは、やがて反乱軍のリーダーとなっていった。

※引用元『サンライズ 重戦機エルガイム』公式サイト

◆当時の衝撃。

まだまだ記憶が曖昧な幼少時代にテレビ放送で視聴したさい、話の内容はまったく覚えていなかったが、これまでに見たことがないロボットのカッコよさと、まるで『スターウォーズ』のように光る剣(セイバー)を持って生身でチャンバラをやる主人公や悪役たちに衝撃を受けたことだけは覚えている。

 

子供ながらに「なんかスゴイアニメがはじまったぞ」という期待感は、大人になった現在でも、そのまま断片的な記憶として脳裏に焼き付いているほどだ。

 

メカニックの造形、5つの惑星にまたがる冒険、モテモテの主人公、そして『ガンダム』よりも全体的に明るいムードなどなど、幼い子供が憧れそうなものはすべて詰め込まれていたような気がする。

 

しかし大人になって改めて全話一気に視聴してみると、モテモテ主人公のダバ・マイロードは、けっこうダメ人間だったり、奥深いと思っていたストーリーは、実はそれほどではなく、

 

「え? こんな話だったのか」

と、驚かされる部分もあるが、それも含めて(つまり当時の思い出と照合する楽しみを含め)、個人的には満足のいく視聴体験となった。

 

子供ながらに本作のロボット群(=ヘビー・メタル。以下HM)に一目惚れした理由も、なんとなく理解できた。

 

それまでにあるような、すべての部分を装甲材で覆われた、いわゆる箱型ロボではなく、所々で骨格であるフレームがむき出しになっているデザインに、よりリアルなメカニックを感じ取っていたのだろう。

 

車で例えるなら、これまでのロボットはカウンタックやフェラーリのような全身を覆われたスーパーカー的デザインの良さだったわけだが、エルガイムに登場するHMのデザインはフォーミュラカーやオフロードバギーカーのような、無駄な装甲板を外して機能性を追求している(ような)カッコよさがあったのだ。

◆リアルロボットの革新。

『機動戦士ガンダム』の翌年に放送された『太陽の牙ダグラム』、さらに1982年に放映された『戦闘メカ ザブングル』などによって、『ガンダム』より派生したリアルロボットというジャンルが(主に中高、大学生などのハイティーン層によって)確立されつつあった時代に、決定打として登場したのが本作『重戦機エルガイム』である。

 

登場するロボットの独特なフォルムや、設定上の性能や生産工程などによるランク付け、武器やアシスト装備のギミックの豊富さなど、これまでのロボットアニメとは一線を画する作品となっている。

 

これらのデザインを一手に引き受けたのは、当時まだ新人であった永野護である。

 

この時代における富野由悠季総監督には、新しい人材をどんどん投入し、次代の業界をも見据えた作品作り、という構想があった。その大胆な人事により抜擢されたのが永野護であったが、実績のない新人にメカデザインのすべてを任すというのは(業界内で)大きな波紋を広げていた。

 

当たり前のことだが、視聴者に提供されるべき作品はプロフェッショナルとして作り上げるべきものだ。

 

それはアニメに限った話ではない。「作品とは新人育成の場所ではない」とするプロ意識としての風潮が制作側にはあったはずだ。

 

この相反する創作へのジレンマの中、それでも富野監督の先見の明があったからこそ、今日まで続くリアルロボットという、大人も含めて楽しめるホビーとしてのアニメーションが確立されたことを考えれば、結果として富野監督の育成方法は間違っていたとは言い難い。

 

おかげで『エルガイム』という作品における作画については、それこそ各回でかなり激しいクオリティの差が生じることになる。ぎこちないスライドショーのような描写さえ含まれている部分がある。

 

しかしそれでもなお、いまだにプラモデルやフィギュアの新作が発売されるほど、本作には根強いファンが一定数存在しているのは確かだ(アニシエも含む)。

 

『エルガイム』という作品がなぜ、2019年の現代においてもまだ色あせない魅力を持っているのか?

 

それはひとえに永野護という、最大最強の中二病作家の存在があったからだと言っても過言ではないだろう。もちろん最大級の褒め言葉である。

◆『エルガイム』から『ファイブスター物語』へ。

当初永野護は、メカニックデザインのみを担当するはずだった。

しかし彼のメカデザインと、これまでのアニメ調キャラクターとの絵柄のギャップに疑問を持った総監督の富野由悠季の提案により、永野護がキャラクターデザインをも手がけることになる。

 

メカデザインからキャラデザ、そして最終的には架空の太陽系(=ペンタゴナ・ワールド)を舞台とし、そこに登場する都市や国家はおろか、5つの惑星における設定なども緻密に作り上げ、その世界を闊歩する巨大人型兵器<ヘビー・メタル>についても、その存在理由や開発の歴史まで創造してしまった永野護という人物は、紛れもなく中二病の始祖たるひとりとして歴史に名を残す偉人であると言える。

 

彼が作り上げた膨大な資料は、劇中ではその半分も消化しきれずに、最終的には別の作品となって昇華されていく。

 

ここでひとつ但し書きをつけておくと、『エルガイム』においての世界観は永野護のアイデアではあるが、ストーリーラインそのものは渡邉由自(わたなべゆうじ)が担当している。

 

というわけで、あまりにも膨れ上がった設定と永野護が思い描いた物語は、とてもではないが4クール(=一年間)では収まりきらず、結果としてまったく別の作品として昇華されていくことになる。

 

『エルガイム』放送終了から1年後の1986年。『月刊ニュータイプ』において、エルガイムのために構築した設定や、それまでに発表していた独自の『エルガイム』(通称、永野版エルガイム)などをリニューアルして、長大なマンガ作品『ファイブスター物語(以下:FSS)』の連載を開始した。

 

<ヘビーメタル>と呼ばれていたロボットは<モーターヘッド>と改称された。これによりアルファベット表記が<HM>から<MH>と、逆になる。

 

『エルガイム』の主人公であるダバ・マイロードは、『FSS』においてコーラス6世と類似しており、HMエルガイムはMHジュノーンと類似している。

 

基本的にまったく別の物語として描かれているが、登場するロボットやキャラクターには随所に類似性があり、比較してみていると「なるほど、これはアニメじゃ描ききれない設定だわ」と実感することができる。

 

『ファイブスター物語』は、様々な惑星における、様々な国家の、多種多様な登場人物が各エピソードにおいて主役となるため、全編を通して一人の主人公が描かれている話ではない。
(一応、アマテラスとラキシスという主人公とヒロインは存在するが、場合によっては何年も登場しない)。

 

「5つの星の物語」というだけあって、その規模は広大であり、世界史的な大河ドラマとして捉えるべき作品であろう。

 

『エルガイム』だけでも語りきれないのに、『FSS』まで説明しだすと、いつまでたってもこの記事が終わらないので、この2作品の関連についてはこの程度に留めておく。

 

『ファンタジー』『リアルロボット』『壮大なストーリー』が好きな方には絶対的にオススメなマンガなので、詳細はご自身の目で読んでいただきたい。

 

いずれ『劇場版ファイブスター物語』についてもレビューするときがくるだろうから、アニメ版についてはそのときにまた改めて記事を書こうと思います。

 

◆キャラクターと声優。

声優に関して言えば、かなり豪華な顔ぶれが揃っている。

 

アニシエが好きな渋いオッサン系声優陣だけでも、ほとんど網羅されているほどだ。

立木文彦、戸谷公次、銀河万丈、若本規夫、玄田哲章、石塚運昇などなど。

 

上記の声優さんたちは、メインで登場するわけではないが、やはり声を聴くだけでビシビシと存在感が伝わってくる感じが素敵ですね。

 

最後まで中ボス的な存在で登場していたギワザ・ロワウ役の西村知道さんも忘れてはいけない名優である。

 

さらに主人公ダバの親友であるミラウー・キャオには大塚芳忠さん。

そしてライバルであるギャブレット・ギャブレーの副官であるハッシャ・モッシャには戸谷公次さんが声を当てている。どちらも名脇役の怪演者である。

ちなみに戸谷公次さんは後々の『ガンダムZZ』でも似たようなキャラクターであるゴットンを演じている。

どちらもアニシエが好きなキャラクターである。

と、ここまで書いていてふと感じたことがある。

 

それは『ガンダムZZ』という作品は(とくに前半部分は)声優陣の配役なども含めて『エルガイム』のオマージュ的な雰囲気が漂っているな、ということだ。

 

まあ、監督・声優・制作会社・放送時間が同じだからという部分もあるが、この2作品の間にはちょっと毛色が違うシリアス路線の『Ζガンダム』が挟まっているのが不思議である。

 

アムロとシャアが出てきてしまうと、どうしても明るいムードになれない空気が流れてしまうのだろうか。などと邪推してしまいますね。

 

脱線したので話を戻します。

 

本作でもっとも印象に残っているキャラクターはふたりいる。まずは、なんといっても速水奨演じるギャブレット・ギャブレーである。

 

最終話までダバのライバルとして登場し続けるイケメンであるが、やることなすこと全てコメディになるという観ていて楽しいキャラクターである。

 

なにをしてもコミカルな結果になってしまうという呪われた宿命にあるキャラクターであり、それがクールな速水奨の声によってさらにギャップが生じる面白さがある。

常に周りからバカにされ、「ギャブレーくん」と笑われながらも、最後まで己を貫く侠気があり、最終話ではダバに協力しアマンダラを倒すという熱い展開までみせてくれる。

最後の最後に、アマンダラに対して「お前の時代は終わった」と告げるシーンでようやく、速水奨のカッコよさが活きるという、美味しいとこ取りな見せ場も、そのままギャブレーらしくてよかったですね。

 

最後に、放映当時から人気が高かった女性キャラ、ガウ・ハ・レッシィ。

ツンとデレのギャップが激しく、そこがまた凄くいい。

 

声優は川村万梨阿さん。言わずと知れた永野護氏の奥様である。この当時はまだ結婚してませんでしたけどね。

 

このふたりのエピソードもまた、紹介したいところであるが、これもまた『劇場版ファイブスター物語』のときにまとめてしようと思います。

 

その方がしっくりくる内容だし、川村万梨阿さんもメイン・ヒロインとして登場するしね。

 

とにかく土曜の夕方5時30分のサンライズアニメに必須な声優さんは、のきなみ登場している。

 

島津冴子、飛田展男、島田敏、森しん……などなど、当時のスタメンがお好きな方にはかなり満足できる配役ではないでしょうか。

◆総評。

最大の問題はストーリー性。

最後のまとめに入るまで、ストーリーについてまったく触れなかったのには理由がある。

 

なにも勿体つけて話さなかったのではなく、端的に説明すると、それほど奥の深い話ではない、というのが正直な感想である。

 

一見すると複雑に見える人間関係や設定などもあるのだが、それらを本当に理解するには本編の視聴の他、当時のアニメ雑誌などに掲載される資料などを読み込む必要がある。

 

現在では検索すれば、大体の情報は出てくるので、資料については代替可能である。

で、それらの資料と照らし合わせて見ると、ようやく物語の全体像が掴めてくるという感じである。

 

そして、それらの情報を知っておかないと、本編の内容は(主に中盤以降からは)
敵・味方のそれぞれの誰かが捕まる→救出する、または脱出する→次のエピソードへ。

という展開の繰り返しである。

 

なぜ放送当時に全話観ていなかったのか……と疑問に思っていたのだが、あまりに上記の展開が多くてうんざりし、いつしか自然消滅的に視聴しなくなったのだろう。

 

展開がワンパターンであることは、特に悪いことではない。

 

昔のスーパーロボット系から、特撮ヒーロー、さらには水戸黄門まで、同じ展開の繰り返しであっても、観たい時期とのタイミングが重なれば、それはそれでひとつの面白さを見いだせるものだ。

 

しかし、当時のアニシエが『リアルロボット』に期待していたのは、そんなワンパターンではなく、手に汗握るような先の読めないスペクタクルを観たかったのだ。

 

そして、その思いは大人になった今も同じである。

 

「なんだよ、また誰か捕まったのかよ。どうせすぐ脱出するんでしょ」
という展開が5回も6回も続いてくれば、どうしたってテンションは下がる。

主人公の魅力が損なわれる展開。

さらに言うと、主人公であるダバ・マイロードの目的が定まらず、物語そのものがブレまくっているところが難点になっている。

 

序盤における様々なキャラクターとの出会いや、アムとレッシーによるラブコメ展開などは、ロードムービー的な要素と相まって、楽しく観れた。

 

だが、話が進めば進むほど、ダバが自分勝手な最低野郎になっていくようにしか見えない展開に、観ている方が引いてしまうような状態になっていく。

 

ダバは、ポセイダルに根絶やしにされたヤーマン一族の王子であることが明らかになる。

 

そこで、ダバを筆頭にし反乱軍が結成されて、ポセイダルに戦いを挑む。というのが後半の大筋なのだが、ここで許嫁であり義妹でもあるクワサン・オリビーが登場すると、途端にダバはオリビーのことしか考えない、自己中心的な行動をとるようになっていく。

 

妹が洗脳されて道具のように使われているのは、たしかにひどい話だし、救いたいものではあるが、それによって自分が立ち上げた組織の誰か(モブキャラ)が常に犠牲になるのはいかがなものか? 仮にも反乱軍のリーダーなのに……という、なんとも煮え切らない気持ちがふつふつと沸いてくる。

 

おそらく、最初の目論見としてのキャラ設定では、指導者としての自覚とパイロットとしての無謀さを併せ持った快男児、という風に描く予定だったのではないだろうか。

 

終わってみれば独断専行、指導者としての立場を放棄し、惚れてきた女たちを使い倒して、義妹と隠居するという、非道の限りを尽くしているようにしか見えなくなってしまっている。

 

ひとりのキャラクターにあれこれアビリティを追加したあげく、持て余してしまったな、という印象を受けました。

 

逆に、無理せずキャラクターを2分して、うまく住み分けして成功した『コードギアス』を観れば、その両立がいかに大変かが分かるだろう。

テレビの限界。マンガにて継承される奥深い物語。

一部の設定が『FSS』に受け継がれているし、クライマックスの『オリジナル・オージェ』なんかは、設定そのものが『FSS』受け継がれていてその系譜としてみると面白い部分は多々ある。

 

というわけで総評としては、若い世代の永野ファンが、そのルーツを知りたいという資料価値は高いでしょう。

 

モーターヘッドについても、そのデザインはいまだに古臭く見えないのも素晴らしい。

 

ネックはやはり物語性ですかね。個人的には自分の思い出修正ができたので及第点です。

 

「いやあ、確かに観たけど詳しく覚えてないなあ~」という人は、観ても損はないでしょう。

「HM(ヘビィ・メタル)」のカッコよさに惚れた人はコミック『ファイブスター物語』の方がオススメです。

 

 


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◆言わずとしれたライトセーバーの元祖。ガンダムより前に作られているというのが驚きですね。