FILE:037 ひだまりスケッチ

評価:★★★(50)

 

TITLE

ひだまりスケッチ

DATA 2007年

 

◆あらすじ。

憧れの私立やまぶき高校美術科に入学したゆの。
親元を離れ、学校のまん前にある小さなアパート『ひだまり荘』で
一人暮らしをはじめたゆのは、そこで同級生の宮子、先輩の沙英と
ヒロの三人に出会う。

 

美術家の変わり者が集う事で有名なひだまり荘では、毎日がてんやわんやな
出来事ばかり。

 

しかし、慣れない生活に戸惑いつつも、優しく温かい仲間に囲まれながら、
ゆのは今ゆっくりと夢に向かって歩きだす。

※引用元『ひだまりスケッチ』アニメ公式サイト

◆シャフトが作る日常系。

物語の中身については、あらすじに書かれていることがほとんどであり、ドラマチックな展開や目を離せなくなるほどのスリリングな展開などは一切ない。

 

また、そういった作品を観たい人が楽しむ作品でもない。

 

そこに描かれているのは『ひだまり荘』という学生寮に住む4人の女学生が織りなす悲喜こもごもないつもの日常であり、繰り返される日常の中でおこるちょっとした変化に一喜一憂するという平穏な世界である。

 

蒼樹うめによる原作コミックにおいても、4コマ漫画のスタイルで日常起こるちょっとした疑問や些細な事件をコミカルに描いている。

 

アニメ版ではこれら4コマ作品を変換して、1話の中にいくつかの短いエピソードとして組み立てて構成されている。

 

大笑いするようなテイストではなく、なんとなく観ていると、思わずクスッと笑ってしまうような、優しい笑いに満ちている。

 

新房昭之監督とシャフトのタッグとしては、初期の代表作品のひとつである。

 

新房監督とシャフトによるタイトルで最も話題になったのは『魔法少女まどか☆マギカ』だろう。

それと、原作・アニメともにファン層の厚い『物語シリーズ』が有名である。

 

とくに『化物語』などに見られる映像演出と、本作の間には共通する点が多くあり、言わば超人気タイトルとなった『物語シリーズ』の前身とも言える作風であることは、アニメ好きなら注目して観る価値がある変遷である。

 

制作年順でいうと

『ひだまりスケッチ』 2007年
『化物語』 2009年
『魔法少女まどか☆マギカ』 2011年

となる。

 

それぞれの続編についてはここで言及しないが、とくに『ひだまりスケッチ』と『化物語』の両タイトルには映像演出において非常に似通った部分が多くある。

 

作風がまったく違うタイトルであっても、監督や制作会社が同じであればテイストは崩さずに、まったく違うものを作り上げることがきるという良い見本である。

 

どちらの作品も原作ありきの作品であり、そのままアニメ化してしまうと、どうしても単調になりがちなジャンルである。

 

『化物語』は西尾維新原作のライトノベルであるが、その文体はほとんどが登場人物の長台詞であり、登場人物たちのダイアローグ(対話)によって物語が進行する。

 

読み物としては非常に面白いのだが、これをそのまま映像化したら、どれほどカット割りしようが単調な会話シーンのみになってしまう。

 

その単調さを逆手に取って、関連のある文字・実写・コントラストの強い平面的な作画などを挿入することによって、テンポアップしているような印象を与えることに成功している。
※詳しくは当サイトのレビュー『化物語』をお読みください。

 

そして、その手法の雛形である(とアニシエが勝手に思っている)『ひだまりスケッチ』においても、やはりそうした実験的な手法がふんだんに盛り込まれている。

 

4コマ漫画という単調なコマ割りは、静止画として読む分には問題ないのだが(読者の好きな速度で読むことができるからである)、映像化するさいには、その単調化をどう処理するかが問題となる。

 

開き直って『サザエさん』のように、あくまで平坦な画面構成で制作するということも可能であるが、それができるのはあくまで国民的な認知度が得られている場合である。

 

ハイティーン層にターゲットが絞られている場合には、どうしても他の作品との差別化や飽きさせない工夫としての映像表現が必要になってくる。

 

背景と混同されそうな小道具の一部(たとえば目覚まし時計など)を実写と差し替えてカットインさせたり、背景をマンガのスクリーントーンのようなテクスチャにしたりと、平凡なはずの背景に変化をつけることで、テンポの良さを演出している。

 

本作でもっとも話題になったのが、料理がほとんど実写取り込みで表現されている点である。

 

しかし、ちょっと苦言をさせていただくと、どの料理(たとえばケーキ)も、輝度・彩度が抑えられているために、あまり美味しそうには観えなかったというのが残念なところだ。

 

せっかく実写を使うのなら、もう少し美味しそうに見える工夫もして欲しかったな、というのが正直な感想である。

 

最後に、原作との大きな違いとして物語上の時系列がバラバラに進むという形式がとられている。

 

普通に進行するならば、入学式があり、夏休みがあり、冬がやってきて……と時間の流れのなかで一年間を表現するものだが、本作ではその順番がランダムと言っていいほどバラバラである。

 

なので、第一話ではすでに全員が仲良く暮らしている状態からはじまり、その後のエピソードで入学シーズンの話があったりする。

 

個人的には、時系列をいじってアベコベに魅せてもらうことに対しては違和感よりも(演出としての)面白さの方が際立ったので問題ないが、中にはそれで混乱してしまう人もいるようで(原作ファンかな?)、注意が必要である。

 

なにげない日常だからこそ、順序をバラバラにしてアンバランスな部分を生み出すという手法は、なかなか考えられていて面白い。単調な日々の繰り返しであっても、それを別の角度から表現すると、そういう見せ方もあるのだな、と素直に感心しました。

 

というわけで、学園系や日常系では定評のある京都アニメーションの作品とは一味違うテイストがある。
どちらも、それぞれの個性であり、個性である以上、好き・嫌いの範疇で語られることが多いとは思うのだが、まあどちらのラインナップを見比べてみても(ここでは列挙しないが)おそらく「どちらも大好き」という声が大半ではないだろうか。

 

とうぜんアニシエも「どっちも超好き」派である。

 

◆原作者が声優として出演している。

原作者である蒼樹うめ氏が、うめ先生というキャラクターで声を当てている。

 

緑色のサナギのような着ぐるみをきたマスコット的なキャラクターであり、作中の内容とはいっさい関係のないキャラクターである。

ちなみに、原作アニメ化にともない設定やアイデアの提案など、積極的に企画に参加していたそうで、だからこその見ごたえのある日常系という作品へと繋がっていったのではないだろうか(※原作者の企画参加については新房監督、シャフトの制作体制としても定着している)。

 

ヒロイン4人の配役については、イメージにぴったり合っている。

それぞれが個性を持ったキャラクターであり、それを見事に演じているおかげで、違和感なく視聴できる。この、違和感なく視聴できるという点が非常に大切で、ここに違和感を感じると快適なながら視聴に支障をきたす恐れがある。この点についての考察はまとめて総評に書くことにする。

 

おそらく唯一の男性キャラである校長先生役にチョーさんが声を当てている。

校長の、あのプルプル震えた感じを声で表現しているあたりは流石のベテランである。

 

シブいオッサン声優ファンのアニシエとして、女性キャストの多い作品で声優さんについて語ることはそれほど多くないのだが、それでも推しな女性キャストのひとりやふたりは存在する。

 

本作で言えば、ひだまり荘の大家さん役の沢城みゆきさん。

 

それと、最終話で登場するアニメ版のオリジナルキャラクター智花(ちか:沙英の妹)を演じる釘宮理恵さんである。

 

どちらも作品上では脇役ですが、声による存在感がキャラクター性とリンクしているので統一感を増す作用がありますね。

 

脇の配役がしっかりしているほど、名作になりやすいというのは実写映画でもアニメーション作品でも共通している条件である。

◆日常系の系譜。

2019年現在、わりと広い範囲で「日常系」という言葉が使われている。

 

日常系というジャンルが確立し、またそこから多様な作風の日常系が新たな枝葉として登場してきているからであるが、そもそもの元祖と呼べる作品はなんであろうか?

 

マンガとの兼ね合いで調べていくと、かなり曖昧な世界へと入り込んでしまうので、あくまで(当サイトがアニメレビューサイトであることも踏まえて)アニメの製作年順に調べてみることにする。

 

条件として以下の項目を含む作品をピックアップしてみる。

 

  1. 特に劇的な展開がなく、
  2. 常に一定のポジションから動かないキャラクターたちで、
  3. 恋愛の要素がない(あるいは極端に薄い)状況である。

 

これらを指して日常系と定義づけるのならば、おそらく下記のような変遷となる。

『あずまんが大王』 2002年
『ARIA The ANIMATION』 2005年
『ひだまりスケッチ』 2007年
『らき☆すた』 2007年
『けいおん』 2009年

※1個人的に『涼宮ハルヒの憂鬱』(2006年)を入れるか迷ったが、上記の作品に比べると多少なりとも恋愛要素が濃いイメージがあるので、今回は対象から外すことにした。
※2あずまんが大王は劇場版の方が早い(2001年公開)が、今回は同じ土俵での調査ということでTV版の放送期間を記載している。

……以下、多種多様な日常系が生まれていく。

あまりメジャーではない作品を含むと、もうちょっと間にタイトルが入りそうだが、調べるのがめんどくさいので割愛する。「なぜ、あの作品が入ってないんだ!」と異議申し立てをしたい方はコメント欄にお願いします。

 

というわけで、やはりアニメの日常系元祖といえば『あずまんが大王』である。

 

アニシエのあやふやな記憶としては『ARIA』の方が古いイメージがあったのだけど、さらに3年後だったんですね。

 

そして、2007年からが日常系という言葉が確立されていく黄金期になっていくわけです。

 

そう考えると、本作『ひだまりスケッチ』も今では立派に源流のひとつというポジションになっているわけですね。

 

なんかもう、アニシエのようなオッサンの時間感覚だと、つい最近の作品に思えてしまうのだけど、10年以上前の代物なんですね……うわぁ、刻の経つが早いわけである(怖)。

 

 

◆総評。

気軽に観れる『日常系』の定番作品。

本作そのものを語る上で、テーマを深堀りしたり、さらにはそのまた奥深くに隠されているかもしれない秘めたるメタファーを捉えてみよう、などという挑戦心はみじんも抱かなくていいと思います。

 

むしろ「最近ちょっとしんどいな」と実生活で感じているときに、なんとなくモニター上で流してみて、それを観るともなしに眺めている、という視聴スタイルが最適解ではないだろうか。

 

暖炉の燃える薪や、ひたすら波打ち際を眺めているときの、あのなんともいえない放心状態に近い感覚で楽しむのがアニシエ的にはいちばん気持ちがいい。

 

元気なときであれば、ラジオ代わりに本作を流しつつ軽い事務処理やPC上の作業などを行うときにもうってつけである。

 

本来、日常系と呼ばれる作品にはそういった映像が流れているだけで安心するような効果が無きにしもあらずではないだろうか。

 

『サザエさん』『ちびまる子ちゃん』『ドラえもん』などなど、子供の頃であればテレビの前にかじりついて夢中で観ていた作品であるが、ある一定の年齢を過ぎてからは半分家族の一員レベルでほったらかしにして声だけ聞いているということも珍しくはない。

 

日常系作品における最上級な仕上がりとは、存在感だけ感じられればよい、という状態まで視聴者を安心させることができる作品のことではないか、とこれを書いていてふと思いついた。

 

なかなか良い定義ではないでしょうか?

 

もちろん本作『ひだまりスケッチ』は、温かい存在感を放っている(良い意味での)ながら視聴に最適な作品である。

 

マニアックな楽しみ方。

最後に、コアな楽しみ方として「どうしても時系列順にエピソードを視聴したい」という人のために早見表を作っておきます。参考にしてみてください。

 

あえて崩した時系列を整列させて観ることで、見えてくる隠し要素が、じつはちょっぴりだけ存在します。探してみてください。

【エピソード時系列順】

  04月 第11話
  05月 第04話
  06月 第03話
  07月 第06話
  08月 第02話
  09月 第09話
  10月 第07話
  11月 第10話
  12月 第12話
  01月 第01話
  02月 第05話
  03月 第08話

 

 


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