評価:★★★★(79)
TITLE |
フルメタル・パニック! The Second Raid (フルメタル・パニック/ザ・セカンド・レイド) |
DATA | 2005年 |
目次
◆あらすじ。
世界中の紛争の火種を密かに消して回る謎の軍事組織「ミスリル」。彼らが、特殊能力を保持した少女「千鳥かなめ」の護衛のために派遣した、敏腕傭兵「相良宗介」も、学校での行動はただの「戦争ボケ」。騒動を起こしては、かなめのするどいハリセンツッコミを食らう毎日であった。
ところがある日、人知を超えた知識「ブラック・テクノロジー」を内包したかなめに、テロリストの魔の手が迫る!ミスリルの「テレサ・テスタロッサ」は強襲揚陸潜水艦「トゥアハー・デ・ダナン」を、宗介は人型兵器アーム・スレイブを、それぞれ縦横無尽に駆使して、テロリストと戦う。
ドタバタスクールライフとミリタリー・サスペンスが表裏一体となって繰り広げられるフルメタ・ワールド、ここに、満を持して、再展開!
※引用元『TDD-1.COM フルメタル・パニック』公式サイト
◆シリーズとしては3作目。
第二期の日常コメディ編である『フルメタル・パニック? ふもっふ』を経て、
再びシリアス編である本作『フルメタル・パニック The Second Raid(以下TSR)』に至る。
第一期のアニメーションを制作したのは『GONZO』であるが、二期以降からは『京都アニメーション』が制作している。
そのため(時代と技術の進化もあるのだろうが)、作中に登場するアーム・スレイブと呼ばれるロボットのデザインについても、細部がリファインされている。
原作小説では4巻・5巻に相当する『終わるデイ・バイ・デイ(上下巻)』がメイン・エピーソードとなっているが、多少の変更が加えられている。
◆原作との相違点。
フルメタル・パニックの全体としての魅力については前作『フルメタル・パニック!』で解説しているのでそちらを参照していただきたい。
今回はまず、アニシエが珍しくも原作小説を読んでいるので、その相違点と、さらなるアニメーション版の魅力について語りたい。
小説版『終わるデイ・バイ・デイ』では、ほとんど脇役で終わってしまった暗殺者が姉妹キャラとして、かなりのボリュームで肉付けされて登場している。
ちなみに原作では姉妹ではなくいかついマッチョな兄妹である。
ムキムキが暴れるよりは、カワイイ女の子が暴れている方がいい。
ナイスなアレンジである。
さらに本作最大の敵キャラクターである『ゲイツ』。並外れた戦闘力と戦場の空気を的確に嗅ぎ分ける鋭い嗅覚。なによりも、味方であろうと意に沿わぬものは容赦なく射殺するというイカれっぷりが最高にマッドである。
というわけで冒頭から、4、5話くらいまでは、アニメオリジナルのエピーソードで話が進む。
南北に分断されて久しい中国の不安定な政治情勢化で、和平会談に出席していた北中国側の要人が謎の武装集団に拉致されるという事件が発生した。
救援要請を受理した主人公・相良宗介が所属している秘密傭兵組織『ミスリル』は、中国での内戦が再び起こりかねないこの事態へと対処すべく現場へと赴く。
しかし、この人質拉致事件そのものが、『ミスリル』をおびき寄せるためにゲイツが仕組んだ罠であった。
ゲイツが所属している武器商人の組織である『アマルガム』は、『ミスリル』の持つブラックテクノロジーの結集でもある『ラムダ・ドライバ』を搭載した宗介のアーム・スレイブ『アーバレスト』を鹵獲(ろかく)することを真の目的としていたのだ。
というのが、オリジナルエピソードの大枠である。
原作とは違う敵側のキャラクターの、その特徴を各自紹介するには最適なエピソードであり、また全編オリジナルストーリーで新作を作っても充分に楽しめるポテンシャルが『フルメタル・パニック』にはある、ということを鮮烈に提示している。
……(・∀・)ぜひ作って欲しいですね!
◆相良宗介の心の葛藤を軸に据えた成長ストーリー。
ゆるぎない自信と、戦場での的確な判断力と決断力。
傭兵のスペシャリストとして描かれている主人公・相良宗介。
しかし本作では愛機であるアーバレストへの不信(本来ならば無敵の強さを実現するブラックテクノロジーであるラムダ・ドライバが作動しないなど)、それから千鳥かなめ護衛の任を解かれてしまう、という『ミスリル』という組織そのものへの不信など、彼が戸惑う様が丁寧に描かれている。
言い換えれば、前二作よりもかなり人間臭い相良宗介が中心となって物語が進んでいく。
やがて宗介は、何もかもに嫌気が差して任務の途中で街の中へと去っていってしまう。
巧妙な蜘蛛の糸のように、そんな彼の足跡を誘導する者の存在を察知した相良宗介は、やがてその相手が誰であるかに思い至る。
死んだはずの宿敵『ガウルン』である。
四肢をもがれながらも、ガウルンは生きていたのだった。
ベッドに横たわるガウルンを見つけ出した宗介は、ガウルンとの会話の中で、さらに自分の本来持っていた強さの脆弱さを知ることになる。
「弱者は強者に寄生する。弱いやつとつるむのは楽しいか?」というガウルンの問いかけに、答えを見出だせない宗介。
そして「千鳥かなめは死んだ」と告げられると、宗介の瞳からは一切の生きる気力が失われてしまった。
◆鬱屈からの開放。爽快なラストバトル。
街中ではアマルガムの最新鋭アーム・スレイブが複数体出現し、ミスリルの部隊を窮地に追いやっていた。
アーバレストが緊急発射され、相良宗介の元へと落ちてくるが、彼はその機体に乗ることを拒否する。
守るべき者である千鳥かなめを失った今、彼には他に生きる意味が見いだせないでいた。
そのまま立ち去ろうとする宗介に、聞き慣れた声が彼を呼び止める。
信じられないといった表情でその相手を凝視する宗介。
死んだと伝えられていた千鳥かなめであった。
そして、このとき、相良宗介にはガウルンの問いかけがハッキリとした答えとして見えてくるのである。
自分が、千鳥かなめという強者に寄りかかっている弱者である、ということを。
こうして、自分の弱さと向き合い、それを克服したとき、アーバレストのラムダドライバは真の力を発揮することとなる。
信じる心とは、自分を客観的に認められるということである。
これまで、自分は強いと己に言い聞かせてきた宗介には、兵器の域を超えた『ラムダ・ドライバ』という装置に無意識では恐怖しか感じられなかった。
怖いのは兵器ではなく、何かを失うかも知れないという心の弱さだと知った宗介は、本当に守りたいものがなんであるかに気づくのである。
人の心を動力源とするラムダ・ドライバ。
その不安定さに翻弄されながらも、搭乗機アーバレストの人工知能である『アル』とも互いを認め合う存在となれたとき、相良宗介とアーバレストの無双モードが発揮されるのであった。
ラスト・バトルまで、けっこう鬱々とした展開が続くが、それらを全部吹き飛ばすほどの爽快感に満ちた結末は、ぜひ言葉ではなく動画でご覧いただきたい。
『フルメタル・パニック!』のレビューでも書いたが、「いよっ! 待ってました!」と言いたくなるラスト・バトルは必見である。
◆総評。
よりマニアックに進化したミリタリズム。
戦闘シーンは文句の付け所がない。さらに言えば、今回は対人戦闘についてもかなり詳細な調査をした上での描き方がされている気がした。
『スリーピング・テロリスト』として人質に紛れて潜入していた暗殺者(妹)であるユイラン。彼女の体術で圧倒する戦い方は(残酷描写もあるが)迫力満点である。
また、各部隊の警戒しつつ前進する際の緻密な動き方。本当にあり得るようなリアルな挙動が素晴らしい。
悪役がイカしている作品は名作である。
シリアス・シリーズ通して言えることは、なんといっても悪役が悪役らしくて良い、ということだ。
前回から登場しているガウルンは、その手足が無くなっても尚、執拗に宗介を追い、その『心』に一矢報いることに成功する。
彼の勝利は、すなわち自分が宗介によって殺されることと同義である。
もはや身体の自由が利かない状態で、もっとも自分らしい生き方を貫こうとすれば、必然的にそうなるのであろう。敵ながら天晴(あっぱれ)である。
そしてクレイジーの代名詞といえるキャラ『ゲイツ』。何度も言うが、この男の悪役っぷり(というかクレイジーっぷり)は、なかなか痺れるものがある。
こういう悪役を演じさせればピカイチな声優、大塚芳忠さん。『Ζガンダム』でもヤザン・ゲーブルという悪党役を見事に演じきっているのだが、この声がまた素晴らしい。
ファンにはたまらない『大塚』尽くし。
カリーニン少佐役である大塚明夫さんともども、めったに実現しない『大塚対決』という意味だけでも、本作は観るべき価値のある作品であると断言しておこう。
……いや、これはまあ個人的な趣味によりすぎてますね(笑)。
趣味という話でもうひとつ付け加えると、本作では大塚周夫さんと大塚明夫さんという、親子共演も実現しているのです。
大塚周夫さんはミスリルの最重要人物であるマロリー卿を演じていて、直接の会話などはないものの、
同一作品で3人の大塚ワールドが観られる作品というもの、けっこうレアである。
ちなみに大塚芳忠さんは、他のふたりと血縁関係はありません。
ここ、テストで出るのでメモしておくように。
言いたくなるね。カリーニン語録。
前回の『フルメタル・パニック!』でカリーニン少佐の個人的なお気に入りのシーンがある、と言っておきながら書いてなかったので追記する。
物語のラスト。
自分の意見を傭兵としてきっぱりと上層部に言い放つ宗介をみたカリーニンは、彼の肩を優しく叩き、こう言った。
「男の顔になってきたな。あとで何か奢ってやる」
そういうと、相手の返事も聞かずに立ち去っていく。
……(・∀・)しぶい!
あと10年くらい経ったら、アニシエも誰か若造に言ってみたいセリフである。
ということで、今回はこれにて。
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◆アニメ第4期までのストーリーはここからはじまった。