◆評価:★★★★★(86)
TITLE |
機動戦士ガンダム0080ポケットの中の戦争 (きどうせんしガンダム・ダブルオー・エイティー・ポケットのなかのせんそう) |
DATA | 1989年 |
目次
◆あらすじ。
地球連邦軍とジオン公国軍による戦いが熾烈を極める宇宙世紀0079年末期。連邦軍の開発したニュータイプ専用モビルスーツ・ガンダムNT-1 アレックスを巡る戦いが、宇宙に浮かぶコロニー・サイド6で展開する。惹かれあいながらも、お互いの素性を知らぬまま戦うアレックスの女性テストパイロット・クリス、アレックスを狙うジオン軍の青年パイロット・バーニィ……。少年アルは彼らの戦いの目撃者となる。
◆バンダイ公式チャンネルより。
内容がほとんどわかってしまうプロモーションだが、購買層は「すでに観たことがある」層だということをバンダイも重々承知している潔さがみてとれる(笑)。
◆ガンダム初OVAにして異色の名作。
『ガンダム』としてOVAで発売された最初の作品。
また『ガンダム』としては初めて富野由悠季監督がメガホンを取らなかった作品でもある。
通称は『0080(ゼロゼロハチゼロ/ダブルオー・エイティ)』や『ポケ戦(ポケせん)』である。
この作品を皮切りに、宇宙世紀として続くガンダム・シリーズ(アムロから続く宇宙世紀の物語で、連邦軍・ジオン軍とそこから派生する勢力の戦い)はOVAで語られていくことになる。
1993年に『機動戦士Vガンダム』が放映されるが、時代設定が70年以上離れているため、まったく別の物語となっている。すべての宇宙世紀シリーズをレビューしきったら、あらためて読みやすいまとめ記事を書こうと思っているので首を長くしてお待ち下さい。
本作『ポケ戦』は、純然たるサイドストーリーというテイストで作られていることが最大の特色である。
なぜなら、本作では大規模な戦いも、連邦とジオン公国の大勢すらも関係のない、あるひとつのスペースコロニーで起きた小さな事件に焦点を当てて語られているからである。
その後に発売される『STARDUST MEMORY』や『第08小隊』のような、派手な展開はほとんどない。
ガンダムの世界においてヒューマン・ドラマを描きたかったのだろう、という制作陣の意図は物語を観れば感じ取れると思うので、まずは興味のある人は何も情報をいれずに視聴することをおすすめしたい。
前年の1988年に劇場版アニメ『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』が公開され、一年戦争から続く因縁的な対決には一応の幕が降ろされている。
にもかかわらず、再び原点回帰のような一年戦争を舞台にしたサイドストーリーを発売した背景には完結編となるはずだった『逆襲のシャア』が予想以上に成功したことが大きな原因だろうと推察される。
『ガンダム』は、まだ物語を紡いでいける。
商業的にも、スタッフのクリエイターとしての意欲も、そして熱望するファンにも、まだまだ『ガンダム』の物語は渇望されていたのだ。
こうして『ポケ戦』が制作されたのだが、初OVAにして、異色なガンダムだと言われている大きな特徴として、『超時空要塞マクロス』を手掛けたことのある高山文彦監督が起用されたことと、それに伴い、同じく『マクロス』でキャラクターデザインを担当していた美樹本晴彦が抜擢されている。
不思議な味わいであり、異色といわれるひとつの要因である。
◆追求されていく戦闘のリアリズム。
本作では戦争(あるいは戦闘)そのものよりも、一年戦争の最中、その片隅で暮らす普通の人々に焦点を当てている。
つまり、ロボットアニメでありながら、内容としては登場人物たちの心象に重きを置いて描かれている。
全6話のOVAではあるが、その中において戦闘シーンは数えるほどしかない。
だが、だからといって戦闘シーンがショボかったり手抜きだったりということはなく、ガンダムシリーズの中でもトップクラスの素晴らしい戦闘シーンを描いている。
リアルな戦いを描写する、という点では、当時としては画期的なほど細部を描いている。
例えば、ジムD型の腕が流れ弾で破損し、千切れかけている腕が手にしている自分のマシンガンの誤射によって自滅するシーンや、コロニー内のビルの隙間で戦うモビルスーツのスケール感を強調した描写などは、かなり練り込まれた演出とディテールであり、21世紀となった今でも充分に視聴に耐えうるクオリティである。
◆シナリオの質は随一。
改めてレビューのために再視聴してみると、そのシナリオの質の高さに驚かされる。
おそらくガンダム・シリーズの中では最高峰の部類ではないだろうか。
OVA第一弾である、その全力投球の意気込みがひしひしと伝わってくるようである。
短編の物語として客観的に評価しても、いい意味で(本来、悪い意味で使われることが多いのだが)ガンダムを抜きにした作品としても立派に成立する土台を持ち合わせていると思う。
主人公は小学5年生の少年アルフレッド(通称アル)。モビルスーツで戦うことのない、普通の少年である。
この少年の視点から、彼の身に起きた小さな戦争を視聴者は観ていくことになる。
宇宙でも、地球でも、この世界では戦争が起きている。しかし軍事的に中立を表明しているアルの住んでいるスペースコロニー(厳密に言うとサイド6のリボー・コロニー)では、ジオンと連邦が繰り広げている戦争もニュースを賑やかす遠い世界の話でしかない。
どこにでもいる少年と同じように、アルもまた、遠い世界の戦争には現実感が伴わず、ただ兵隊ごっこや戦争ごっことしての、遊びの中で楽しむエッセンスのひとつでしかなかった。
しかし、平和が当たり前だと思っていた自分のコロニーにおいて、地球連邦軍の極秘開発計画が進み始めていたのだった。
それを察知したジオン軍の特殊部隊が、その正体を暴くべくコロニーへと侵入してくる。
ザク改に乗って作戦に参加していたバーナード・ワイズマン(通称バーニィ)は戦闘中に被弾して不時着する。
眼の前で起こった戦闘で落下するザク改を目撃したアルは、その跡を追っていく。
そこには不時着したザク改と、自分に銃を突きつけるバーニィの姿があった。
このふたりの出会いが、最高の思い出と最悪の悲劇を生む発端となるのだが、そのときのアルに(あるいはバーニィに)、それを予見することなど不可能だった。
この先、バーニィとクリス(ガンダムNT-1『アレックス』のテストパイロット)が出会うことになる。互いの自分の素性を公にできない事情があったからこそ、最後の戦いまで行き着いてしまうのだが、そこに至るまでの話の流れは俊逸なので、ぜひ作品でご覧いただきたい。
淡い恋心と、兄弟のようなバーニィとアルの友情。そして男同士でしかできない約束。
どれもがドラマとしてしっかり描かれていて、どのシーンも観るたびに(つまり結末を知っているのに)思わずウルっと目頭が熱くなってしまいます。
最後のバーニィのビデオレターは、涙なしには観れない名シーンである。
ちなみにアニシエはこれで通算(おそらく)10回以上は観ているが、
とうぜん何度観ても号泣である。
◆あえて欲張りな注文をしたい。
なんだか賛美ばかりのレビューになってしまったので(別に素直な感想なので、それでもいいのだけど)、ここで少し無茶な注文をつけておくとする。
ガンダム好きであり、ロボット好きであるアニシエとしては、このクオリティで作れるのならば、もっと戦闘シーンを増やしてほしかった。
必然性がなければ意味がないんだけど、ケンプファーの出番もあれだけでは物足りない。
それと、ささやかな疑問なんだけど、いくら機動性を重視しているからといって、ケンプファーの装甲が薄すぎではありませんか?
バルカン砲に毛が生えた程度の弾丸で全身にボコボコ穴が空くのは、なんだかベニヤ材みたいな薄さだなあ、と眉根を寄せてしまいました。
さらに言えば、最後の決戦であるバーニィのザク改VSクリスのアレックスの戦闘シーンが、他と比べて若干(いや、かなり)粗雑である印象を受けた。
ガンダム史上でも屈指の地味な戦いなだけに、ここにこそリアルな挙動を最大限に描いてほしかった。第一話で描かれているようなリアルなスケール感を感じさせてほしかったです。
それにしても、素人丸出しのアムロが操縦してさえ、ザクを2機も倒したガンダムの後継機なのに、ザク改1機(それも重火器を持っていない)に翻弄されて苦戦ギリギリで勝つというのは、いくらニュータイプ用で扱いが難しいからと言って、少し不自然ではないだろうか。
『戦場の絆』でヘッポコ大佐であるアニシエがアレックスを動かしても、ザクなら2~3機は戦えます(比較になっていない)。
本来(飛行機や車などの)テスト・パイロットというのは、トップクラスの腕前と知識を持っているのが大前提である。
「それだけマジでアレックスの操縦はハンパねえんだってばよ」
と言われてしまえばおしまいであるが、ガンダムの名を冠したモビルスーツとしてはちょっと情けない感じで終わってしまっている。
と、まあ無理矢理に粗を探して、これくらいである。
どれもがロボット好きな人間の欲張りな意見であり、そこ(戦闘シーン)に主軸を置いていないのは明らかなので、ホントに単なるワガママですね。
分かっちゃいますが、やはりせっかくいい話だから勿体ないよねえ、という独り言まで。
◆声優について。
ヒロインであるクリスチーナ・マッケンジーを演じているのは林原めぐみさん。
意外に思われるかもしれませんが、『ガンダム』において林原めぐみが声を当てているキャラクターはクリスだけである(※注:『SDガンダム』系列は除外する)。
あれ? 他にも演じてるキャラいなかったっけ?
と、調べてみたけど、やっぱり誰も出てきませんでした。意外ですよね~。
バーニィことバナード・ワイズマンは辻谷耕史さん。
その後『ガンダムF91』でシーブックの声を担当しています。低くもなく高くもない、ちょうどいい音圧の声ですね。透明感のあるキャラクターが似合います。
が、後年『交響詩篇エウレカセブン』においては超切れ者な悪役デューイ・ノヴァクを演じていたりして驚きました。しかし、これもまた見事なはまり役。
そして渋いおっさん声優ファンのアニシエとしては、なんといってもハーディ・シュタイナー隊長を演じる秋元羊介さんの声に痺れます。
東方不敗マスター・アジアですっかりひょうきん者なイメージがついてしまいましたが(笑)いい声してますよね。
『ガンダム』キャストからはシロッコでお馴染みの島田敏氏がガルシア役で参加しています。
こうやって並べてみると、声優のキャスティングにしても、それまでの『ガンダム』配役とはちょっと違っていますね。
主人公の少年アルを演じたのは当時まだ12歳だった浪川大輔さんである。
現在(つまり大人としての)の声のほうがイメージが強すぎて、まったく別人に思えてしまいます。
まあ、声変わりもしていない頃の少年ボイスですから、当たり前なんですけど。
浪川さん、キャリア長いんだなあ。
余談ですが、その後大人になった浪川さんは本作のDVD発売時とブルーレイ版発売時に、成長したアルという設定でCMのナレーションをしています。
なかなかニクイ演出である。
◆総評。少年は戦争の現実を知る。
子供が戦争を体験する。
そこにはリアリティがあるようで、ないような戸惑いがある。
本作序盤ではこの「子供が感じる戦争」について、じつに丁寧に描いている。
たとえどんなに身近な問題として戦争が迫ってきていても、実際に親しい人物が目の前で死んでしまったり、傷ついてしまったりしない限り、どこか胸躍るお祭りのような高揚感をもってしまう……という子供ながらの感じ方に関する描写は、けっこうリアルだな、と思った。
アニシエも子供時代、遠い親戚のおじさんが亡くなった葬式に出席しても、その人の『死』は、それほどリアルなものとして感じられなかった。
だから焼香の時には怒られないように静かにやり過ごしたとしても、終わってしまえば無邪気に周りの子供たちと遊んでいたものだ。
戦争に限らず、事故や事件に関しても、子供というものは当事者に近い場所で体験しない限り、好奇心のほうが勝ってしまうものだ。
そうして無垢に近づいていき、思わぬ方向へ進んでいく現実に傷ついてしまう。
そうした経験を何度も経て少しづつ大人へと成長していく。
そんな縮図が、この作品にはテーマとして盛り込まれているはずだ。
ポケットの中の戦争は、それがどんなに小さい戦いであったとしても、やはり『戦争』なのである。
物語の中ですべての決着がついたとき、アルのクラスメイトたちは彼が戦争をしていたという事実を何も知らない。
そこへ無邪気に戦争ごっこの話をしてくるクラスメイトを見て、アルは笑みを浮かべようとして泣いてしまう。
それはお祭り騒ぎとしての戦争観へ戻りたい子供が、現実を知ってしまったがゆえに戻れなくなってしまったことを自分が理解したことへの悲しみである。
つまり、アルはポケットの中の戦争を経て、少しだけ周りより大人になってしまったのだ。
このラストを描くために、全6話の物語すべてが伏線になっている。かなり俊逸なストーリー展開である。
こうした普遍性を兼ね備えている秀逸なシナリオというものは、何年経っても色褪せることがない。
間違いなく名作としてオススメできる作品である。
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◆ガンダムシリーズ不朽の名作。これを観ずにガンダムは語れない。