◆評価:★★★★★(85)
TITLE |
Re:ゼロから始める異世界生活 (リ・ゼロからはじめるいせかいせいかつ) |
DATA | 2016年 |
目次
◆あらすじ。
無力な少年が手にしたのは、
死して時間を巻き戻す ” 死に戻り ” の力。
コンビニからの帰り道、突如として異世界へと召喚されてしまった少年、菜月昴。頼れるものなど何一つない異世界で、無力な少年が手にした唯一の力……それは死して時間を巻き戻す《死に戻り》の力だった。大切な人たちを守るため、そして確かにあったかけがえのない時間を取り戻すため、少年は絶望に抗い、過酷な運命に立ち向かっていく。
◆新時代の主流となる方式。
小説投稿サイト『小説家になろう』において長月達平が連載をはじめ、約4年後にアニメ化となった作品。略称は一般的に『リゼロ』である。
いわゆる『なろう系』のライトノベルが本格的にアニメ化されたのは、2013年の『ログ・ホライズン』が最初とされている。
現時点(令和元年)においていえば、本作は『なろう系』アニメとしては、ちょうど中間点に位置する作品となる。
さきほど、いわゆる『なろう系』と書いたのには、アニメ化された作品の中には『小説家になろう』以外の投稿サイトからアニメ化されたものも含まれるからである。
たとえば『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』などは投稿サイト『Arcadia』に投稿されていた(現在は削除されている)作品である。
タグ表記における『なろう系』についても、『投稿サイト系』と記載するか迷ったが、おそらく当サイトを訪れる人であればピンとくる用語だと思われる(つまりタグで検索する時にイメージしやすい)ので採用することにした。
簡単に言ってしまえば「Web上で投稿・連載されている作品のアニメ化」に関しては『なろう系』で統一するということです。そして、その作品が『小説家になろう』以外のサイトであれば、都度解説をいれて補足していく、ということですのであしからず。
◆最初は舐めていました。
というわけで、元を正せばWeb上で連載していた素人作品なわけで、
「ちょっと人気が出たからアニメ化&書籍化したんだろう。どれ、どの程度のレベルでそこまでフューチャーされるのか確認してみようじゃないか」
という、完全なる上から目線での出発であった。
『異世界召喚』も『タイムリープ』も『ファンタジー』も、すべて浦島太郎の時代から存在するネタである。
……にもかかわらず、それらをここまで巧みに融合させている本作の演出と構成力にまず驚かされた。
主人公ナツキ・スバルの能力『死に戻り』がなければ物語が進んでいかないというもどかしさを上手に演出している。
さらに「早く続きが観たい!」と、ついつい夜ふかししてまで一気にマラソン(=全話視聴)してしまうほど毎回最後の部分での引きが強い。
※引きとは、次回の話へ視聴者を興味深く誘うことを言う。演出として意図的に行うことがほとんどであるが、下手な演出だと展開が読めてしまって返って興ざめしてしまう引きも世の中には数多く存在する。
笑えて、泣けて、不条理に抗い、謎から謎へと息継ぎさせずに展開していく。
物語中盤から、メインヒロインであるエミリアからサブヒロインであるレムへの以降も申し分なく、どちらのキャラクターにも好感触を残しつつ人気を下げない工夫が組み込まれている。
物語の構成においては細部に至るまで徹底的に練り込まれている。
視聴前の上から目線は完全に覆され、その面白さに夢中になってしまいました。
要所要所では、やや難のある進行もないわけではないが、総合的にみて『ファンタジー』が好きな視聴者であれば誰もが楽しめる作品となっている。
◆『時間』に対する根源的欲求を刺激する。
H.G.ウェルズの小説『タイムマシン』を起点として、近代メディアにおいて『タイムスリップ』『タイムリープ』『タイムループ』などを扱う作品は古今東西、あらゆる地域において普遍的な題材として扱われてきている。それぞれの違いについては、いずれ別記事で詳しく書くつもりなのでここでは割愛する。
前述したとおり、日本の昔話である『浦島太郎』においても龍宮城という未知の領域へ足を踏み入れたがために、現実世界と時間軸のズレが生じるような現象を扱っている。
同様の物語は神話や宗教の経典などにも様々な形で描かれている。
たとえばケルト神話の『ティル・ナ・ノーグ』や仏教の『パーリ仏典』などにも同様の形式で物語が描かれている。さらにギリシャ神話、ヒンドゥー教……探し出せば切りがない。
さらに『時間』を題材にした小説、映画、マンガに至っては枚挙に暇(いとま)がないほどだ。
SF映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズもそうだし、筒井康隆原作の『時をかける少女』も実写版やアニメ版の映画が制作されるほど人気のテーマとなっている。
『リゼロ』の放送時期に前後して、同種のテーマを扱っている『シュタインズ・ゲート』や『僕だけがいない街』といった『タイムリープ』をメインにしている作品も登場している。
紀元前の大昔から令和の時代に至るまで、連綿と描かれ続けている題材としての『時間』には、どれほどの魅力があるのか?
人間の欲求として、どれだけ努力しても、どれだけ資金を注いでも、決して買うことができないものが『時間』である。
誰しも人生で一度や二度(アニシエなんかは5分に1回は思っているが)、時間を巻き戻してやり直したい、というターニングポイントがあるはずだ。
人生を左右する大きなターニングポイントから、アイスクリームを落とす数秒前に戻りたいという小さな動機まで、願ったことがない人間などひとりもいないはずである。
紀元前だろうと令和元年だろうと、『時間』を操ることへの欲求は常に人生につきまとっていると言えるだろう。
『リゼロ』『シュタゲ』『僕街』という近年の『タイムリープ』作品がすべてヒットしている要因も、人が持つ普遍的な欲求を刺激しているからに他ならない。
どこまで科学が進歩すれば時間を自在に操ることができるのか? まったく見当のつかない話であり、現時点では技術力で可能になる領域ですらないと考えられている。
だからこそ我々はフィクションによる『たられば』に夢中になるのかもしれない。
◆壮大なる序章。
じつは、本作は最終話からが、本当の意味での異世界生活のはじまりとなっている。
つまり「俺たちの戦いはこれからだ!」的な終わり方である。
原作では、(当たり前だが)本当にその後のエピソードが綴られていくので、興味のある方は原作の方で続きを楽しんでみるのもいいだろう。
メインヒロインであるエミリアとの出会いによって、異世界において彼女を守ることを決意するナツキ・スバル。
彼女を取り巻く陰謀に巻き込まれて命を落とすが、その状態に陥る少し前の時間まで戻って復活するという『死に戻り』の現象が起きていることに、何度目かの落命のあとで気付きはじめる。
自身の得意な能力を生かして状況を打破しようとするが、一度や二度では簡単に運命は変わらない。スバルはその度に死の苦しみを味わいながら、果敢に運命へと挑んでいく。
状況が好転するルートへ辿り着くと、すぐにまた別の問題によって『死に戻り』を余儀なくされていく展開が続いていく。
転換点となるロズワールの屋敷での事件では、スバルが眠りにつき、目ざめたときには『死に戻り』によって時間が戻っているというミステリアスな展開が続き、引き込まれるような面白さを味あわせてくれる。
アニメ版では今のところメインヒロインであるエミリアが中盤から影が薄くなり、後半ではレムの可愛さが炸裂してしまうので、最後に再びエミリア登場してくるときも、なんだかそのまま薄味なヒロインとして終わってしまうのは少し勿体ない気もしたが、大いなる序章としてみれば、それも今後の期待値に含まれるものとして許容できるだろう。
ここから先がまたエミリアの見せ場となっていくのだろうが、アニメではまだそこまで語られていない。
第二期の制作が決定したとのニュースは入ってきているが、公式サイトではまだ目立った動きもないので、今後の動向に注目したい。
◆リアルな若者としての主人公。
現実世界において引きこもった生活を送っていた主人公ナツキ・スバルが、どのような理由であれ異世界に飛ばされたからといって、いきなり超人的な勇者になれるわけではない。
戦い方も知らなければ(剣道経験者という設定はあるが)、命をかけて他人と殺し合うことも知らない少年ができることなど限られている。
一度は撃退した街のチンピラにしても、再び対峙したときにはあっさりと殺されてしまう。
『死に戻り』という能力の説明的なシーンではあるが、ここには何もできない人間が自分の持てる全てを使って誰かを守る、という本作の大前提となるテーマが描かれている。
それに伴い、ナツキ・スバルの死への恐怖や葛藤、誰も信じてくれない未来の話への苛立ち、本当のことを打ち明けられない苦しみといった、苦悩の全てが全編に渡って緻密に描かれている。
かなり特殊な状況ではあるにせよ、ナツキ・スバルという主人公には等身大の若者像を投影したリアルさが描かれている。
ゆとり世代や、しらけ世代といった年代別の若者ではなく、どの時代にも共通した若者の無謀さと臆病さ、強さと弱さの切り替わる瞬間といった機微をきちんと観せてくれる作品は珍しい。
とくに物語終盤での、ナツキ・スバルの浅ましい自己犠牲愛を謳った利己的な行動が、いかに醜悪であるかを見せつけるように描いたシーンは俊逸である。
若者の利己的な(自分では利他的と思っている)感情をここまで醜く描いている(視聴者が近親憎悪の心理で離れる危険を犯してまで)ことが、本作をただのエンターテインメント以上の作品へと押し上げているのではないだろうか。
◆声優について。
渋い声優ファンとしては、あまり記すことはない(言い切った)。
ナツキ・スバル役の小林裕介さんは、なぜか他の作品でも『スバル』名の役柄が多い。
偶然なのかもしれないけど、なんとなくスバル声なんですかね(テキトーなコメント)。
ロズワール役の子安武人さんは相変わらず存在感のある声でいいですね。
ラインハルト役は安定のイケボである中村悠一さん。ラインハルトというキャラクターは「英雄にしかなれない男」と評されるほどの完璧最強な騎士である。だからこその「イケメンにしかなれない声」の持ち主である中村悠一が演じるのは妥当であろう。
個人的に嬉しかったのはロム爺役で登場した麦人さん。『新世紀エヴァンゲリオン』の黒幕キール・ローレンツ議長を演じていた大ベテランである。
◆総評。
『シュタゲ』と『僕街』に対する『リゼロ』の決定的な違いは、主人公が常に孤独であるという点だろう。
『シュタゲ』と『僕街』はあくまで現実世界での『タイムリープ』であり、機転を利かせさえすれば、時間軸の異なる場合においても友人や家族から、なんらかの助けを受けることができる。
たったひとりで異世界へ飛ばされてしまっているナツキ・スバルには、それができない。
自分の能力を他人に語ろうとすると激痛によって阻まれ、それを無視して告白すると相手の心臓が握りつぶされるという、徹底的な孤独感から出発している。
孤独な状況からの『死に戻り』による真実の解明や、信頼できる仲間が増えていく展開はかなりよく練り込まれているのだが、それでもやはり今後の課題として不安要素にはなってくる。
『死に戻り』による人生のリセットが可能という設定は、その性質上、物語が激しさを増すほどに頻度が上がってしまう可能性がある。
そうなると自分でやり直すために自殺することを厭わなくなり、苦痛に慣れてしまうと、この仕掛そのものが冗長になり、パターン化してしまうだろう。
作中の設定(魔女の残り香が濃くなっていく)である程度の抑制も考慮されているが、それでも死ねばやり直せるというパターンを視聴者が覚えてしまうと、緊迫感を削ぐことになりかねない。
物語とキャラクター性だけでも充分に観せられるくらいしっかりした作品なので、第二期では(あるいはさらにシリーズ化されていく頃には)『死に戻り』を減らす方向でスバルが成長し、かつ別の視点でのミステリアスな要素も加わっていくことを期待する。
でないと、機数無限設定のアクションゲームと大差ない単調さとなってしまうだろう。
それにしても……
泣かされるほど感動的なシーンがあるとは思っていなかった。
ホントすいません。舐めてました。
ラノベであれ、純文であれ、そこに心を動かす言葉がある作品は、ジャンルなどという些末な慣習に縛られることなく賞賛されていい。
そう思わせてくれる作品でした。
故に、文句なく『★★★★★』である。
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