FILE:020 勇者になれなかった俺はしぶしぶ就職を決意しました。

評価:★★★(55)

TITLE

勇者になれなかった俺はしぶしぶ就職を決意しました。

(通称:勇しぶ)

DATA 2013年

 

◆あらすじ。

勇者試験を目の前にして魔王が倒され、
勇者になれなかったラウルは、
王都にある小さな電気店、
マジックショップ・レオンに就職。
勇者から電気店店員となった。
ラウルは忙しい毎日を送っていた。
そんなラウルの平凡な毎日は、
バイト希望でやって来た少女との出会いをきっかけに、
大きく変わってしまった。
彼女の名はフィノ。
実は倒された魔王の娘だった!?

※引用元『勇者になれなかった俺はしぶしぶ就職を決意しました。』アニメ公式サイト

 

◆ファンタジー世界の『終わり』のその後。

おとぎ話の『桃太郎』の時代から、常々人々の想像を掻き立てるのは「めでたし、めでたし」の、その後の生活である。

 

鬼や竜を退治したあと、主人公やその家族、はてはそこに住まう村や国の人々の生活はどのように変化していくのだろうか?

 

誰もが一度は疑問に思う(あるいはその空想にふける)ことがある問題だ。

 

本作(通称『勇しぶ』)は、そんなファンタジー世界において、ラスボスである『魔王』を倒して「めでたしめでたし」の、その後を描いたコメディ作品

 

戦いの日々から一転して平和なファンタジー世界へと価値観がシフトしてしまった世界である。

 

ラノベの典型的なハーレム要素を踏襲しつつ、タイトル通りの生活を描いていく一風変わったファンタジー作品である。

 

◆平和な世界にも問題はある。

勇者候補生だった主人公、ラウル・チェイサーが魔王を倒す前に他の勇者によって魔王が倒されてしまい、この世界にある『勇者制度』が廃止となった後の世界が舞台となる。

 

この世界における『勇者制度』には様々な特典があり、言うなれば福利厚生が盤石な一流企業に就職するようなことと同じような待遇を受けることができた……はずだった。

 

しかし、魔王は別の勇者によって倒され、平和な世界に勇者という存在が不必要になった。

 

それに伴い、他の勇者候補生のみならず、傭兵や武器商人といった、戦いにまつわる人々が失業の憂き目にあい、『魔界崩壊不況』と呼ばれる経済的な不況に苦しむ社会となっていた。

 

それでも人類全体で言えば、世界は平和になり、命を脅かされる心配は激減しており、情勢としては安定している。

 

勇者になることを人生の目標としていたラウルは、しかしそれでも生活のためには何かしらの職につかねばならず、就職氷河期の中にあって、どうにかこうにかマジックアイテムを売るチェーン店の店員として『しぶしぶ』就職することになった。

 

物語は、ラウルが勤めているショップにひとりのアルバイトが入ってくるところからはじまる。

そのアルバイトとして入ってきた少女が、実は魔王の娘であるフィノ・ブラッドストーンであった。

 

魔界で魔族の王女として育てられたフィノは、その言動に難があるものの、決して悪に染まっているというわけではなく、純朴で素直な一面も持っていた。

 

ラウルとフィノ、そしてそれを取り巻くキャラクター達が巻き起こす騒動の中で、ラウルは生きる目的を再発見し、フィノは人間世界での経験を通して、魔界そのものの新しい生き方を模索する上でのヒントを得ていく。

 

人の住む世界にも不穏な火種はあるし、魔界の中にも世界を変えていきたいという前向きな存在もいる。

 

シンプルな構造に見える世界観の中で、シンプルな答えを安易に明示しない作り方には好感が持てる構成である。

 

◆よく考えるとけっこう現実的なファンタジー。

 

タイトル通り、主人公は勇者という『夢』が途中で断たれてしまい、意に沿わぬ形で就職することになる。

 

職業と世界こそ違えど、これはわりと世間にありふれた話でもある。

 

子供の頃にスポーツ選手を夢見ていた人、あるいはハイクラスなステータス(医者や弁護士など)を目指して努力してきた人。

 

だが、その中でも(外的な要因で)その夢を断念しなければならない人も多数いる。

 

「自分はこんな仕事(あるいは作業内容)をしたくて生きてきたわけじゃない」という思いは、アルバイトでも正社員でも、誰しも一度は思ったことがある正直な気持ちではないだろうか。

 

本作は、そういった共感できる思いをファンタジーというヴェールで柔らかく覆いながらも、切実に描いている。

 

とはいえ、過度の悲壮感を漂わせるようなことをせず、あえてポジティブに「それでも、そんな生活も悪くはないよな」という、観ている者の心を晴れやかにする工夫がなされている。

 

20代~30代前半をターゲットにしているのだろうが、そこから若干はみ出しはじめているアニシエも、「ああ、こういう気持ちってあったよなあ」と思わず何度も頷いてしまうシーンが(冒頭の数話ではとくに)ある。

 

◆すらすら観れる心地よさ。

全体を通して、シンプルな日常系ラブコメとして進んでいく。

 

ライトノベル系アニメでコメディタッチの作品というのは、基本的に見せ場の配分がほどよく分散していて、それでいて必要以上に複雑な演出がない。

 

最初から「軽く、ゆるく、楽しんで観よう」という心構えで視聴していれば、その期待が裏切られることはほとんどない。

 

どれくらい、軽く・ゆるく観る心構えが必要かというと、

 

たとえば(もしかしたら原作ではきちんと説明がなされているのかもしれないが)魔王の世界に身をやつしていたその娘が、どうして邪悪な環境の中で清廉な心を持ち続けることができたのか、という根本的な疑問があるのだが、まあラブコメなんだから、そんな細かいことを気にするのが野暮ってものである、というくらいの気軽さである。

 

こういう作品は、こういう作品なんだ、と割り切って観ることが楽しむコツなのだろう。

 

さらに、設定の話で言えば、勇者という存在、魔王という敵対者、そして双方へ武器を売る商人、というこの三者構造が談合のもとで争いを維持していたという構想は、現代の軍産複合体と同じような図式であり、それをコメディのスパイスとして取り入れている点に、作者のマジメさの本質が見え隠れしていて、けっこう感心してしまったりする。

 

◆ラブコメとしては安定しすぎな面もある。

すべてのヒロインが性格良し、主人公スキスキな超ご都合主義であり、恋愛的な駆け引きという点では刺激が足りない。

 

そして、その足りない刺激分を(かなり)過剰なお色気サービスで埋め合わせているような感は否めない。

 

……が、そもそもこういったアニメは脳休めとして、安定してニヤニヤ観ることを目的としているのだから、それはそれでいいのである。

 

アニシエももちろん、何も考えずにニヤニヤ観て、脳細胞の休息をとらせてもらいました。

 

5本に1本くらい、こういう作品を観るのも悪くない。

◆総評。

似ているわけではないが、通底する何かがある。

同じテイストで別の作品を、となるとまた話が別になるのだが、なんとなくアニシエ的に「内容はまったく違うけど、世界設定のベースとなる部分に共通項がありそうな作品」として、下記の2作品が脳裏に浮かんだので追記しておく。

 

  1. 『まおゆう魔王勇者』
  2. 『はたらく魔王さま!』

 

どちらもオススメ作品である。本作が好きになった方は、きっと楽しめる作品だと思います。

 


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