評価:★★★★★(90)
TITLE |
劇場版マクロスF 恋離飛翼 ~サヨナラノツバサ~ (マクロス・エフ サヨナラノツバサ) |
DATA | 2011年 |
STORIES | 115分(1h55m) |
目次
◆あらすじ。
西暦2059年。
新天地を求め、銀河を進む超大型移民船団『マクロス・フロンティア』に
銀河の妖精『シェリル・ノーム』が舞い降りる。ときに可憐に、ときに妖しく、ミステリアスに歌い・踊る。
シェリルに憧れ、歌手を目指して励む『ランカ・リー』。
二人を、そしてフロンティアを守るため、民間軍事会社S.M.Sへ志願する『早乙女アルト』。
時空を超えて、情報やエネルギーを伝達する希少鉱石フォールドクォーツの資源と、そのフォールド波に共鳴し、操る力を秘めた歌姫の謎を巡って、様々な思惑が交錯していく。
そのとき、未知の超時空生命体『バジュラ』の群れが再びフロンティア船団を襲う。
激しい戦いのなか、バジュラの攻撃から船団を守るため命をかけて歌い、戦う、ランカとシェリル。そしてアルトと仲間たち。
惹かれ合う彼らの未来は、今……。
※引用元『劇場版マクロスF恋離飛翼~サヨナラノツバサ~』劇中内ナレーションより。
◆マクロスとガンダムは競合しない。
劇場作品としての概要は、前編である『イツワリノウタヒメ』にて解説しているので割愛させていただく。
今回は総評としての『マクロス』について語っていこうと思う。
ガンダムが政治的思想(ニュータイプ理論など)や、人類の革新と可能性を追求している作品だとするならば、マクロスシリーズの根幹にあるものは若者たちの群像劇である。
主人公は戦いの中で成長し、ヒロインは戦いを別の角度から(主に歌という形式をとって)とらえることによって成長していくことが物語を通して語られる普遍的なテーマである。
そもそも、ロボットアクションとアイドルをかけ合わせた世界を構築し、よりエンターテイメントなロボットアニメを制作しようというのがスタッフ陣の思惑であったはずであり、出発点からしてガンダムとはまったく異質なものとして存在し、それゆえにロングセラーのシリーズ化に成功しているとも言える。
SFやロボットアニメに興味のない人からみると『ガンダム』と『マクロス』の違いなんてものは、
「ようするにロボットのデザインが違うんでしょ?」
などという暴論が飛び交っても不思議ではないわけだが、意外にアニメ好きでもメカ系はあまり好みではない、という人々からも似たようなことがまことしやかに囁かれたり、囁かれなかったりする。
こういう人に対して、正直に言って『ガンダム』はまったくオススメできない。
なぜかと言われれば、あまりにも『予備知識ありき』な方向で語られることが多いからだ。
それは、言うなればピーマンが苦手な人に青椒肉絲(チンジャオロース)を食べさせるようなものであって、それではピーマンの良さを伝えきる前にギブアップされてしまう可能性が大きい。
だが、ピーマンを細かく刻んでハンバーグに混ぜて出せば、もしかしたらハンバーグの旨味からピーマンの味を徐々に理解していってくれるかもしれない。
そう『マクロス』とは、つまり刻んだピーマンが入っているハンバーグ的な作品だということだ。
……なんだこの話? 軌道修正。
とにかく、『マクロス・シリーズ』はSF考証も、ロボットによる戦闘シーンについても、分かる人には「こいつはスゲエぜ」というレベルのクオリティを維持しつつ、知らない人にもキャラクターが紡ぐ物語性だけで楽しく観ていける要素がしっかりと作り込まれている。
ラブコメ的な、ちょっとニヤニヤできるシーンが散りばめられているロボットアニメ作品というのも、じつはそれほど多くはない。
そういった中で、いわば大御所である『マクロス』作品において、今なお『ニヤニヤできる』が健在なのは、なかなかスゴイことではないだろうか?
これがメカ系を敬遠しがちな人に『マクロス』をオススメする理由である。
◆マクロスは潔い。
シリーズを通して(例外はあるものの)描かれるのが恋愛の三角関係である。
本作でもメインストーリーとして、この要素が含まれており、キャラ好きな視点からすれば、ラブ・ストーリーにロボット(=SF)のエッセンスが加わっていると言ってもいい。
そして、深いテーマ性はないものの、それを大幅に切り捨てた潔さからくる迫力の戦闘シーンは、思わず(何度も観ているので)ながら視聴だというのに、その手を止めて見てしまうほどの迫力と、ある種の美しささえ感じさせるものがある。
ヒロインたちが歌うシーンについても、細部の(映像的)演出が徹底されていて、リアルなアーティストのライブステージングを原形にして、近未来であればこれくらいにはなるだろう、という考証がなされた上でのステージング(SF的VRエフェクト)を作り上げている。
◆技術で一歩先行く感じがある。
革新的な映像表現で言えば、常にガンダムシリーズの一歩先を行くマクロスシリーズは、多くのアニメファンにとって『今現在の映像技術の最高峰』を知る上で、よい目安となっているだろう。
今後ストーリー性の深みを、この技術革新で作られていく世界観に組み込める日が来たら……その作品はきっと日本のアニメーションを代表する金字塔のような作品となるのではないだろうか。
現時点であっても、そのポテンシャルは充分にあると言って良い。
今あるシリーズを時系列に観ていくだけでも、技術の進歩と職人技の妙がせめぎ合う様がよくわかります。
それだけでも資料的価値としては申し分ない作品群である。
◆菅野よう子という存在。
『マクロスF』を語る上で外すことができないのが、音楽担当の菅野よう子女史が手がける楽曲群である。
オープニングでいきなりはじまる『禁断のエリクシア』から、『虹いろ・クマクマ』。
そして監獄アルカトラズにて開催されたランカのライブで披露される『星間飛行』と、どれをとっても臨場感あふれる映像に負けないサウンドで観ている者(あるいは聴いている者)を魅了する。
TV版の名曲と、それ以上とも言える劇場版の新曲を、是非とも堪能して欲しい。
◆総評。
河森正治監督が語っているように、劇場版マクロスFは「これまでのマクロスが全部入っている」作品である。
どの辺りに全マクロス的要素が内包されているかというと、それが言葉であったりメカニックであったり、背景画だったりするのだけど(『マクロス2』に関してはなにも入っていない気がするが)、一番分かりやすくて往年のファンが拍手喝采するのは、なんといっても『マクロス・プラス』の主人公イサム・ダイソンが登場するシーンであろう。
登場、といっても声だけ(CV:山崎たくみ)であるが、彼が乗っているであろう機体(VF-19)が決戦の場へ駆けつけるシーンが一瞬だけ挿入される。
これだけでアニシエなんかは失禁ものの大喝采である。
というわけで、往年のファンには見どころ満載であり、マクロスを知らない人であっても、かなり取っつきやすいエンターテイメントとして見事な仕上がりになっている『劇場版マクロスF』は、文句なくオススメできる作品である。
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