FILE:018 魍魎の匣

評価:★★★★(75)

TITLE

魍魎の匣

(もうりょうのはこ)

DATA 2008年

 

◆あらすじ。

「この世には不思議なことなど何もないのだよ、関口君ーー」
元映画女優・美波絹子の妹・加菜子は、親友の頼子と共に最終電車に乗って湖を見に行こうとするが、何者かに駅のホームから突き落とされ、轢かれてしまう。偶然、事故車両に乗り合わせた刑事の木場は事件を追うが、大勢の警官が警備する中、搬送先の研究所から重傷の加菜子が忽然と消えてしまった……!
時を同じくして、八王子で連続バラバラ殺人事件が発生。小説家の関口と編集者の鳥口は、「御筥様」を祀る宗教との関連を調べる。一方、探偵の榎木津はある人物から加菜子の捜索を依頼される。互いに調査を続けるうちに、箱型の建物とのつながりが判明するが……。一同は憑き物落としの京極堂の元へ集結し、怪奇事件の真相を追う!

※引用元『魍魎の匣』公式サイト

 

◆長大な原作を見事に移植。

 

通称『京極堂シリーズ』と呼ばれている、京極夏彦の推理小説が原作のアニメである。

 

普段は古書店の気難しい店主である主人公・中禅寺秋彦は、家業である神社の宮司でもあり、陰陽師でもある。

また仲間内からは古書店の屋号である『京極堂』の名で呼ばれることが多い。

 

『憑き物落とし』と言われる彼独特の事件解決法が、このシリーズでの最大の見せ場となる。

 

上記に引用したあらすじを読んでもらえば分かる通り、一読して理解することはほとんど不可能なほど、内容は入り組んでいる。

 

アニシエは個人的に京極夏彦の作品が好きなので、とうぜん原作の小説も読んでいるのだが、それでもなお、この複雑な筋の話を「端的に説明してくれ」と言われたら、丁重にお断り申し上げることにしている。

 

いま手元にある『魍魎の匣 文庫版』の厚さを測ってみた。

 

……ざっと4cmあった……。

 

ちょっとした辞書くらいの分厚さがあるのである。

 

そんな作品をチョチョイと数行で教えてくれと言われたら、中身のことなんてとてもじゃないが書けっこないのである。

 

主要登場人物を説明するだけでも足りないくらいである。

 

本作のタイトルがアニメ化するということに先立って、アニシエはかなり懐疑的に作品の仕上がりについて前評価を下していた。

 

「こんな複雑な物語をアニメ化したところで、中途半端になるに決まっている」

 

せいぜい、プロモーションの一環として作りました、というレベルで終わるだろう、と高を括っていた。

 

だが、いざ作品を観てみると、そこには見事なまでに世界観を再現した『完全移植』と呼ぶに値する出来栄えで放映されていたのである。

 

これには本当に驚かされた。

 

◆原作へのリスペクトと相乗効果。

 

一見して、原作のイメージをとても大切にしている作品だということがわかる。

 

技術・演出として、とくに目新しいことは何もないが、的確な描写と、複雑怪奇な原作をシンプルにまとめあげている作り方は、素直に好感が持てるし、おそらく原作を知らない人であっても、すんなりと作品へ入り込めるように考えられている。

 

何よりも特筆すべきことは、原作との相乗効果を意識して作らているという点だ。

 

たとえば京極堂の『憑物落とし』。

 

これはなにもオカルティックな呪術合戦などではなく、基本的には相手に憑いている凝り固まった思想や概念を論破することによって、相手の価値観を一度まっさらな状態へと戻してあげることを旨とする。

 

物語中盤では、新興宗教の教祖である寺田兵衛(CV:チョー)に対して、生半可な知識でもって『お祓い』を行い、穢れをもったお金を教主に預けさせる、といった悪どい所業を行っていたことを諌(いさ)めるために、その博覧強記な知識と言動によって、彼のそれまでの行いを悔い改めさせるという『憑物落とし』を披露してみせる。

 

原作でも同様のことは行われているのだが、その雰囲気は活字である以上、自分の想像力頼みとなる。

 

しかし、映像としてあらためてそのシーンを視覚的に体験すると、より多くの説得力が増してくる。

 

というか、単純にアニシエなんかは動画で『憑物落とし』が観れただけで感動ものなんだけどね。

 

逆に言うと、おそらく原作を読んでいない人は、『憑物落とし』に必要とされる故事来歴の説明台詞について、まったく意味が飲み込めない、という部分も出てくるだろう。

 

原作を知らずに観ていると、その台詞の漢字がわからないからである。

 

大切な言葉に対しては文字情報やイメージ映像として、ちゃんとカットインされるという配慮があるにせよ、すべての台詞にテロップを出すような野暮な演出はしていない。

 

本作を視聴してみて、『魍魎の匣』あるいは『京極堂シリーズ』に興味を持たれた方には、原作を読むことを強くオススメする。

 

言葉の意味(とか漢字での表記)が理解できると、さらに楽しさ倍増なのは確かである。

 

原作、アニメ、どちらから入ってきたにせよ、もう片方に自然と興味を抱かせるような作り方をしている作品というのは、良作であることが多い。

 

そのバランスが悪いと、結局視聴者の心には何も残らず、その作品にまつわる全てのメディア展開が衰退してしまうからだ。(あまりよろしくない相乗効果については『Robotics ; Notes(ロボティクス・ノーツ)』のレビューで詳しく述べているのでそちらを参照していただきたい)

 

その点おいて、本作はどちらのメディアもそれぞれの得意分野をいかした演出方法を徹底的に磨き上げて作成されている丁寧さがあり、同じ物語の同じ結末であるにも関わらず、それぞれの持ち味を味わいたい、というメディア・ミックスとして正当な楽しみ方が可能な作品だと言えるだろう。

 

 

◆声優について。

 

物語の舞台設定が戦後まもない昭和27年ということもあって、そこには前時代的な怪しい美しさと共に、おどろおどろしい闇のような薄暗いイメージがつきまとっている時代として描かれている。

 

どちらかといえば暗いトーンで話が進行していくことが多いのだが、登場人物の(原案)デザインがCLAMPということもあり、暗く濁ったシーンの中にほどよい清涼感で中和してくれる華やかさをそえている。

 

CLAMPがキャラクターの原案を手がけてはいるが(あくまで私見だが)、本作ではそれほどCLAMP色が全面には出てきていない。

 

こだわりのある作品に対して、真摯な態度でデザインを考案しているのだな、という心意気が見えて好ましいです。

 

中禅寺秋彦役を演じている平田広明さんについては、完璧なまでにはまり役だと思います。

 

思わず誰もが耳を傾けざるえないような、一本芯の通った声質は、まさに『憑物落とし』に欠かすことのできない要素のひとつである、とも言える。

 

芸達者なチョーさんが演じる寺田兵衛、本作の真相を握る重要人物である久保竣公を演じる古谷徹さんも快演でした。

 

すべてのキャスティングに違和感がなく、素晴らしい配役だと思います。

 

声だけ聞いていても良い、と思えるくらい素敵な声と台詞回しである。

 

◆総評。

本格ミステリーをアニメで観たい!

そんな人向けの、本気なミステリー作品である。

『名探偵コナン』や『金田一少年の事件簿』といった、マンガ原作のアニメとはまた違う、独特の雰囲気を味わいたい人、それにミステリー作品全般が好きな人にもかなりオススメの一本である。

原作を知らない人への追記。

本作『魍魎の匣』は、原作でいうところのシリーズ2冊目となる。

 

初作品のタイトルは『姑獲鳥の夏(うぶめのなつ)』です。

 

どちらも戦後昭和の、どこかしら鬱蒼(うっそう)とした怪異の闇がすぐ近くにあるような、不思議な臨場感を漂わせる怪奇・伝奇ミステリーとして最高にスリリングな作品です。

興味を持たれた方はぜひ読んでみてください。

 


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◆上下巻に分冊されたタイプもありますが、やはり辞書のような分厚い文庫で読んでほしい(笑)。