FILE:069 センコロール

◆評価:★★★(50)

TITLE センコロール
DATA 2009年
STORIES 30分

 

◆あらすじ。

ビルの屋上に突如出現した謎の白い生き物とその様子を気だるげに見つめる少年・テツ。

彼は「センコ」という名をつけた自在に姿を変える能力を持った

生き物を密かに使い高校生活を送っていた。

ある日テツはその秘密を同じ学校に通う少女・ユキに偶然知られてしまう。

そんなふたりの前にセンコを狙う謎の少年・シュウが姿を見せ、

思いも寄らぬ騒動が持ち上がるのだが……。

※引用元『センコロール コネクト』公式サイトより。

<アニプレックスYou Tubeチャンネル>より。

◆実験的な要素が強い作品。

最初に言っておくと、謎の多さのわりに尺が短い作品である。

『センコ』の正体、主人公テツがシュウに襲われる理由、そして最後の(ある意味)どんでん返し的な結末。

すべての「なんで?」に答えがないまま終わってしまうので、観る人によっては非常にもどかしい思いを抱くことになるだろう。

 

視聴する心構えとして「まあ短編作品なんだから、そんなに肩肘張らずに、ゆったり観ようじゃないか……」というくらいの心の余裕が必要である。

 

アーティスティックな作品なのだ、と割り切ってしまえば、それなりに楽しく観れるでしょう。

 

◆不思議な感覚。

内容についての解説は、非常にシンプルである。

 

正体不明の生物『センコ』を通して、ふたりの少年が都市を破壊するかのような勢いで戦いをはじめる。

 

戦闘シーンの描写は感覚的な気持ち良さをくすぐられるような映像表現で描かれているが、どうにもどこか平坦な印象が拭えない。

 

『センコ』の変幻自在な能力のせいかもしれないが、どれだけ戦闘の規模が大きくなっても、そこに迫力というものが追加されない。感覚的には「なんだかいい感じだな」という感触はあるのだが、なぜか盛り上がりには欠けるという奇妙な感覚。

 

これが作者の狙いなのか、予期せぬ副作用なのかは分からないが、なんにせよ、アニシエ的にはキライじゃない。むしろ「なんでこんな不思議な感覚になるのだろう?」と興味が湧いてきました。

 

◆ヒーローの在り方が問われているのか?

本作において、表面に出てくる大きなテーマ性というものはほとんどみられない。というか、感じられない。

 

一見すると平坦な構成やカット割りの中に、なぜか惹きつけられる魅力が感じられるものの、やはりどうしても「何かちょっと物足りないな」という思いが先に立ってしまう。

 

ただ、非常に興味深く思えたのはラストでのヒーロー交代劇である。

 

テツを宿主としていたセンコは、実にあっさりとヒロインであるユキを宿主として変更する。そして、この交代劇には劇的な演出がまったくされないまま交代してしまう。

 

このあっさりとした交代劇が、その後の続編(実に10年以上もかけて制作された)で、どれほどの伏線となっているのかは未視聴なので今後の楽しみとしてとっておくとして、主人公が、主人公としての能力を失って終わるというのも珍しい展開である。

 

それも、大して親しくもないヒロインに、ヒーローとしての条件を譲渡するというのも不思議な物語である。

 

『センコ』という存在が、ヒーローだけのロボットや特殊技能と同じような役割だとすれば、ヒーローとは宿命付けられている存在ではなく、もっと偶然性の高い自由度の高い存在であるべきだということを訴えているのだとすれば、本作はまぎれもなくアンチ・ヒロイズム的な位置づけで語られることだろう。

しかし、冒頭でも言っている通り「センコとはなんぞや?」という疑問がある限り、単純なヒロイック・ファンタジーとしては語れない。せめてセンコの正体がある程度はっきりしない限りは、これ以上の感想を並べても、ただの仮設の積み重ねとなってしまうからだ。

 

本作においての「ヒーローの在り方」を論じるならば、やはり続篇の『センコロール2』を視聴してからじゃないと、はっきりとしたことは言えない。なので、この議題はとりあえず棚上げにしておく。

 

◆動画革命東京とは?

そもそも本作はどのようにして制作されるに至ったのか。その経緯を説明しておこう。

いわゆる普通のアニメ制作とは異なり、どちらかといえばクリエイターに対する支援事業としての特色のほうが濃い。

『動画革命東京』とは、

そもそも東京都の支援によって誕生したアニメクリエイターを発掘、育成する事業である。

(出典:ウィキペディア)

簡単に説明してしまえば、クリエイターのオリジナル企画に対して、アニメ制作のあらゆるインフラを整えてあげる、ということだ。

 

ジャパン・アニメーションが世界的に脚光を浴びるにつれ、文化庁を中心にして国内における「芸術」の守備範囲をもっと広げていこうとする運動の一環である。

 

しかし残念ながら2021年現在は支援作品の応募はしていない。

 

昨今流行りのサステナビリティ(持続可能性)が不十分だったということだろう。

『センコロール』という作品そのものは、監督である宇木敦哉(うきあつや)によるマンガ作品『アモン・ゲーム』を元にして制作された。

 

一部背景などを外注に出したものの、アニメ制作の大半を自力で行ったことでも大きな話題を呼んだ。

 

現在においては、個人で映像作品を作るということに対して、以前よりはるかにハードルが下がっている。YOU TUBEやニコニコ動画を筆頭に、様々なジャンルの映像がアマチュア・クリエイター達によってアップされている。

 

もちろんそれらは玉石混交ではあるが、より秀でたクリエイターに対して常に最先端の映像制作インフラストラクチャーを提供するような事業団体があれば、日本のアニメ・映画産業はもっと発展していけるのではないだろうか?

 

昔は質の悪い外注先でしかなかった中国や韓国が、どんどんアニメ制作のノウハウを吸収し、今では一部作品において日本の制作会社が下請けとなっている時代である。

 

有能はアニメーターや監督は、彼らが作品作りに没頭できるような環境をもっと提供していって日本の文化としてのアニメーションを守っていって欲しいものである。

 

『動画革命東京』のような事業団体を創設するのは非常に意義深いと思うが、途中で息切れしていては意味がない。もっときちんと計画を練り上げて、継続的にアニメ作品のクオリティを底上げできるような仕組みができることを願うばかりである。

◆声優について。

出演者が3人しかいないんだから全員紹介すればいいとは思うけど、思い入れのない人を無理やり褒めるというのも当サイトの趣旨に反するので、今回はおひとりだけ。

ユキ役の 花澤香菜(はなざわかな)さん。

個人的なハマリ役は『ISインフィニット・ストラトス』の、シャルル・デュノアこと、シャルロット・デュノアである。

マジで恋しちゃえるほど可愛い役でした。あ、『IS』の話です。すんません。

以上である。

 

◆総評。

繰り返しになるが、端的に説明してしまえば実験アニメである。

出てくる生物、戦いの由来、その他の設定ついては一切の説明がない。

冒頭から結末まで、説明的な部分は全く無いが、それでも不思議な「かっこよさ」が漂っている作品である。元来、アニメーションというものは、これくらい説明がなくても見せ方によってはカッコよく見せ続けることが可能である、ということを(実験的に)示唆しているのかもしれない。

 

『センコ』と呼ばれる不思議な生き物と、それに類似する生物たちは、お世辞にも愛嬌があったりデザイン性で優れているわけではないが、その異なる能力同士の戦いは、それなりの独創性もあったし、不要なセリフのないダイアローグにはかなり好感がもてる部分もある。

 

しかし、この作品にエンターテイメント性を求めることはしないほうがいい。

 

あくまで実験的な手法で制作された芸術作品であり、娯楽作品ではない。というスタンスで視聴するすることをオススメします。

学術的にアニメを研究している人には一見の価値があると思いますが、単純に「アニメを楽しみたい」という人にどれだけ訴求できるのか? ちょっと簡単には判断できない部分がありますね。

 

俊逸だな、と思った部分としては映像の構図やカット割りにおける独特のセンスがあげられる。

人間の視覚的な作用をうまく利用しているような感覚。観ていて気持ちがいい動きとでも言いましょうか。既存のアニメにはない短編アニメだからこそできる凝り方がある。

 

ひとりでアニメを作ると言うことは、「すごいですね~」なんですが、評価としてはそれ以上でもそれ以下でもない。視聴者側から言わせれば、ひとりだろうが100人だろうが、それは作品の質には関係ない。

肝心なのは、楽しめるか否か、ということに尽きる。

 

その視点に立ったとき、この作品では、そこが(つまりひとりで作ったことが)あまり意義を感じられなかったです。むしろもう少しお金をつっこんで、人手を掛けて、作品世界を広げればもっと面白いものが出来たんじゃないかな……と考えてしまい、なんか「勿体なかったですね」という感想になってしまいます。

 

今後、アニメーションの手法を使って独自の映像作品を作ってみたい! という人がいたら、参考資料として視聴するのは有りだと思います。

ひとりでもここまでできる。ということが分かります。

 


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