FILE:054 ARIA The ORIGINATION(第3期)

◆評価:★★★★(60)

TITLE

ARIA The ORIGINATION(第3期)

(アリア・ジ・オリジネーション)

DATA

2008年

STORIES 全13話

 

◆あらすじ。

賑やかなカーニバルが終わって、ネオ・ヴェネツィアにまもなく春が訪れようとしています。そんな折、アリシアさんのお客様から、桜の紅茶と桜のジャムが届きました。一足早い春のプレゼントです。アリシアさんの提案で、姫屋の晃さんや藍華、オレンジぷらねっとのアテナさんやアリスも誘ってティーパーティーを開くことになりました。さっそく準備を始める灯里を手伝って、アリア社長も大活躍です。

※引用元『ARIA The ORIGINATION』公式サイトより。

◆2021年。劇場版最新作が公開!

アニメ放送15周年を記念して劇場版が上映されることなりました。

 

そこまで根強い人気があるとは存じませんでした……。いやはや、すごいですね。

 

なにが凄いって、当時テレビ版『ARIAシリーズ』を手掛けたアニメ制作会社「ハルフィルムメーカー」すでに倒産しちゃってるのに、新作が作られるほど需要があるっていうのが凄いと思います。

 

みんな癒やしを求めているんですかね……。

 

というわけで、なんだかタイムリーなレビューとなってしまったわけですが、わざとじゃないんですよ。

(※詳しくは雑想記の『ランダム視聴について』をご参照ください。)

 

劇場版のタイトルは『ARIA The CREPUSCOLO』(アリア・ザ・クレプスコーロ)。

きっとコアなファンの方々は心待ちにしているのでしょうね。

 

せっかくなのでトレイラー貼っておきます。

 

 

◆待望の第3期。

本作は、第1期第2期と、予想外の人気を受け、さらなる続編を望むファンの声に大きく後押しされる形となって、制作された経緯がある。

 

『ARIAシリーズ』の監督である佐藤順一さんによると、本当は第2期の『NATURAL』完結する予定だったそうです。

 

しかし、ファンの続編を望む声は原作者の天野こずえさんにも届いており、それを受けて原作でも物語を完結させるので、それと並行して第3期の制作がはじまったという異例の制作スタイルとなった。

 

つまり、長期連載マンガのアニメ化によくある「アニメオリジナルの結末」を勝手に作って終わりにしない、という意気込みが原作者とアニメ制作スタッフで共有されたということになる。

 

こういうことって、なかなかあるようでない。

 

連載が終わっているマンガであれば、なにも問題はないが、連載が続いている作品だと結末をどうするかが最大の問題となる。

 

もっともわかりやすい例で言えば『鋼の錬金術師』などは典型的なアニメとマンガで結末が別れた作品であろう。

 

『鋼の錬金術師』は、原作マンガが完結する目処がついた段階でアニメも再制作するという、こちらも異例の展開となってるが、それはまた『ハガレン』をレビューするときに詳しく語ろう。

 

失礼を承知で言わせてもらえば、どちらかといえば地味な作品である『ARIAシリーズ』において、ファンの声がこれほどまでに制作陣と原作者に届いたというのは、それだけ待望していた人が(予想外に)多かったということだ。

 

まだ『日常系』なんて言葉はほとんど存在していない状況で、スタッフたちでさえ『ヒーリングアニメーション』という造語を作っていた時代。

 

まだ確立されていないジャンルだったからこそ、ファンの声は大きく、多く集まったのかもしれない。

 

◆テーマは「はじまり」

本作を観ていて感じたことは(当たり前だけど)「時間は流れていくものなんだな」という、少しずつ世界が変わっていく感覚である。

 

アニメを観ていると(「サザエさん方式」で年を取らない作品などはなおさら)忘れがちになるのだが、時間は物語とともに進んでいってしまう。

「いつまでもこのままでいてほしい」という願望が、良作であればあるほど、心の底から湧き上がってくるものである。

 

「終わってほしくない」と思いながら「でも、ヒロインたちにはハッピーな結末まで辿り着いてほしい」というアンビバレンツ(二律背反)な感情に嬉しい悲鳴をあげたりもする。

 

アニシエ個人としては(オッサンなので)そこまでの「ヤキモキ感」は正直言ってなかったけれど、たぶんヒロインたちと同年代の女性であれば、アニシエの数倍は共感できるのではないだろうか。

 

第1期から「プリマのウンディーネ」を目指していたヒロインたち。その夢がようやく手の届く場所まで近づいてきた。

 

「プリマ」となるためには、それぞれがそれぞれの問題と向き合い、それを克服していかなければならない。

 

メインヒロインである、灯里・藍華・アリスの葛藤と、彼女たちのメンターで「水の三大妖精」と呼ばれているほどの実力者、アリシア・晃・アテナ。

 

三大妖精はどのような視点から彼女たちを「プリマ」として認めるのか。

 

変わりゆくヒロインたちは、現代社会で言えば新人研修から、ようやくひとりのプロフェッショナルとして、仕事をしていく覚悟というものを求められていく。

 

その過程が丁寧に描写されているから、同年代のファンを魅了しているのかもしれない。

 

あるいはそのプロセスが理想的な世界であるからこそ、癒やされるというべきなのかもしれないですね。

 

ヒロインたちの「プリマ」への道のりはどうなったのか?

それはぜひ視聴して結果を堪能していただきたい。

 

◆舞台装置に『日常系』の仕掛け。

『SFファンタジー』であり、ヒロインたちは日々刻々と変化していく

 

なのに『ARIAシリーズ』『日常系』として人気を博している理由を、アニシエなりに考えてみました。

 

前作までは、何気ない日常の小さな変化をエピソードの主軸にしていたように思います。

 

今作はヒロインたちの未来への希望や不安、心の葛藤などが大きくクローズアップされて進行していきます。

 

流れゆく「時間」と変化していく「状況」。

 

どことなく物悲しい感覚に見舞われるのも、この「変化」による違和感を感じとるからでしょう。

 

それでも、本作では常に空間としての緩やかさ、暖かさを維持したまま進んでいくという不思議な感覚も味わうことができます。

 

なぜそんな感覚を得られるのか?

 

これはひとえに舞台設定としての「観光都市ネオ・ヴェネツィア」の風景があるからでしょう。

 

歴史を感じさせるたたずまいには、人間の小さな変化など簡単に溶け込ませてしまうくらいの包容力があります。

 

数世紀に渡って変化しないことを誇りとしてきたヴェネツィアの風景。変化がないからこそ、そこには安定感や安心感が生まれ、それは大きく言えば平和の象徴としての町並みであるということが言えると思います。

 

大前提としての世界が平和で支えられているからこそ、我々視聴者は『ARIAシリーズ』の世界へと安心して没入していけるのではないか。

 

だからこそ、その世界を欲している熱烈な視聴者の心を掴んで離さないのかもしれません。

 

ながらで観ていてさえ、クセになる中毒性があるのだから、新作を希望するファンの数が多いのも頷ける話である。

 

◆総評。

観終わって思ったのが、「思春期を迎えた子供(とくに女の子かな)に観てもらいたい」という非常にオッサンくさい感想でした(笑)。

 

学生や社会人になろうとしているような時期、そのつど自分の人生に悩む瞬間は必ず訪れる。

 

そんなときに、なんとなく観ているだけでも、そこに自分が生きやすくなるヒントがあるかもしれない。

 

そういう繊細な何かに気づけるのは、若者の特権だと思います。

 

オッサンなアニシエの汚れてしまった感覚では気づけない繊細な何かがあるはずです(涙)。

 

『日常系』のお決まりである「もとへ戻る」という進行ではなく、時間は進んでいく。誰もが変化していく。それが素敵な方向でありますように、という願いが感じられた、非常に優しい作品である。

 

作っている人が優しい人達なんだろうな、きっと。

 

というわけで、悩んでいたり、ちょっと疲れて一休みしたい、という人にはオススメの「ヒーリングアニメーション」である。

 

 


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