評価:★★★★★(85)
TITLE | マクロスプラス(MACROSS PLUS) |
DATA | 1994年 |
目次
◆あらすじ。
マクロスによるボドル艦隊との戦争終結から30年を経た、A.D 2040年。一部のゼントラーディとの融和を果たしながらも、新たなる艦隊の襲来を予想した人類は、銀河の各地に移民を進める、種の拡散計画を実行しつつあった。
そして、地球から10数光年を隔てた惑星・エデン。そこは、そんな人類移民惑星として早くから開発が行われ、フロンティア精神に燃える数多くの人々が居住する、地球によく似た環境の星であり、物語はそのエデンに設けられた、ニューエドワーズ基地のテストフライトセンターに、ひとりのテストパイロットが配属されたことから始まる。
彼の名は、イサム・ダイソン。地球生まれで、卓越した操縦技能を持つのだが、協調性に欠けることから試作・可変戦闘機YF-19のテスト部隊に送り込まれた青年である。だが、彼が基地に赴くと、そこにはYF-19と制式採用を巡って競っているYF-21のパイロットをつとめている男の姿があった。ガルド・ゴア・ボーマン……かつてイサムの親友であり、またライバルでもあった男。ふたりはそれぞれの機体を駆り、大空で火花を散らすが、そんなある日、人気沸騰のバーチャル・シンガー、シャロン・アップルのコンサートが開催されることになる。そのプロデューサーは、イサムとガルドの幼なじみ、ミュン・ファン・ローン。3人が運命の再会を果たしたとき、心を持たぬはずのシャロンの中に、電子の嵐が吹き荒れた…。
◆総監督・河森正治。
マクロスの中でも異色作。大人向けテイストである。
青年群像劇としてのアニメーション。その代名詞として『マクロスシリーズ』があることは以前に『劇場版マクロスF 恋離飛翼 ~サヨナラノツバサ~』で述べた。
本作では自分勝手に暴れまわる(だが、腕前は一流である)主人公、イサム・ダイソンが、目に余る命令違反を繰り返した挙げ句に転属させられた基地において、最新鋭機のテスト・パイロットとして赴任するところから物語がはじまる。
そんなイサムの心の成長と、過去の因縁への決着を主軸に物語は進んでいく。
次期主力可変戦闘機(バルキリー)の選抜評価試験として、イサムは最新式の可変戦闘機『YF-19』に搭乗することとなる。
イサムと競合関係にある『YF-21』のテスト・パイロットが、ガルド・ゴア・ボーマン……イサムの幼なじみであった。
しかし、その再会は双方にとって喜ばしいことではなく、すでにいがみ合う仲となっていた。その背景には、過去の因縁が根強く残っていた。
連日の激しい評価試験のなか、彼らのいる惑星エデンに星団中でもっとも人気のあるヴァーチャル・アイドル『シャロン・アップル』がコンサートを開催するために訪れることになった。
そして、ヴァーチャル・アイドルの人工知能が収められたボックスの隣には、ふたりの幼なじみであり、ヒロインのミュン・ファン・ローンの姿があった。
こうして、ひとつの惑星に再集結した3人の激しい恋愛模様と、戦闘機乗りの意地とプライドが激突する群像劇が繰り広げられていくのであった。
◆本作の見どころは『異端』であること。
他の『マクロスシリーズ』と違い、本作では恋愛の三角関係の男女比率が逆転している。
つまり、男が二人、女が一人という構図である。
他の作品では基本的に女性2に対して男性(主人公)が1である。
本作は制作初期の段階からインターナショナル版(海外向け)を念頭に制作されていたことを鑑みると、おそらく海外でのマーケットでは『男たちが女を奪い合う』という構成のほうが好まれる傾向が強いからかもしれない、と勝手に推測をしてみたりする。
海外の映画であまり女性が男を奪い合う物語ってないですよね。あっても、ほとんどがコメディ映画である。
『カウボーイ・ビバップ』で見事な脚本を手がけ、国内外からも高く評価されている信本敬子さんが担当しているだけに、海外を意識した設定とストーリーであることは、それほど的はずれな見解ではないと思っている。
そして最大の見せ場は、これまでのマクロスのような大規模な決戦ではなく、
物語の終盤に起きるイサムとガルドの大喧嘩である。
これもアニメならでは青春映画に対するオマージュなのではないか、とアニシエは考えている。
古い青春映画によくあるシチュエーション『夕日の中で殴り合う』というシーンを、最新鋭戦闘機でのドッグファイトへ昇華させているあたり、思わず「クスっ」と笑ってしまう場面でもある。
戦闘中のシーンは物語の核心をつく大事なシーンなんですけどね。
◆当時最高峰のクオリティであったことは間違いない。
『劇場版マクロスF 恋離飛翼 ~サヨナラノツバサ~』でも言及しているので、ここではおさらい程度に記しておくが、コンサート描写におけるVRエフェクトは、アニメの技術史として現在においても一見の価値がある。
『マクロスF』で確立されている手法の、いわば先駆けとした技術力を結集して製作されているシーンとして、その資料的価値は非常に高い。
CGとセルアニメを意欲的に融合させていく手法は、当時かなり画期的な表現手法として話題になった。
昨今ではセルアニメのようなCGを作り出すことにある程度成功している段階ではあるが、当時の技術レベルでは人間をCGで描くとなると、やはり一発で見分けがついてしまうほどの違和感があった。
しかし、マクロスに必須のファクターである『アイドル』という存在をひとつの仮想現実として設定することによって、『ヴァーチャル・アイドル』がコンピューター・グラフィックスの中で動いている、という違和感のないストーリーを構築して見事に組み込んでいる。
無理やりCG画像をねじ込むのではなく、きちんとした整合性の中で技術革新を進めるというのは、マクロスシリーズならではのセンスの良い進化法則である。
戦闘シーンにおいても板野一郎氏のミサイル描写である、通称『板野サーカス』は健在で、なんとこの作品のためにわざわざ本人がアメリカで模擬空中戦を体験したらしい。
そう思ってみると、なるほどヴァルキリー形態(=飛行機形態)での戦闘シーンの迫力がハンパないわけである。
◆サントラについて。
リアルタイムで観たファンは全員買ったんじゃないか?
キャラデザについては意見が別れていたり、戦闘シーンの少なさを嘆く従来のマクロスファンであっても、口を揃えて賛美しているのが本作のサウンド・トラックである。
シャロン・アップルが歌うナンバーもさることながら、躍動感あふれるBGMに、爽快感あふれるオーケストラの楽曲と、バラエティに飛んでいて、なおかつ統一性もあるという珠玉のトラックである。
担当は菅野よう子女史。
今でこそ「そりゃ凄くて当たり前だ。大御所じゃないか」という意見が多数を占めるだろうが、じつは菅野よう子さんのアニメ音楽デビュー作は他ならぬこの『マクロス・プラス』である。
ここから数々の名作アニメの音楽が誕生していったのかと思うと、なんだかちょっと感慨深いですね。
当時のアニシエもご多分に漏れず、『マクロス・プラス』のサウンド・トラックを発売と同時に購入した。
しかし最初のサウンド・トラックではお目当ての楽曲『Idol Talk』が入っておらず、2枚目のサントラが出るまで、ずいぶん待ち焦がれたのを覚えている。
ここまでアニメの音楽についてちゃんと聞きたいと思えた作品は、おそらく『マクロス・プラス』がはじめてだったと思う。
それくらい鮮烈に記憶されるくらい、菅野よう子が手がけた音楽は作品にフィットしていたということが言えるだろう。
◆総評。
過去に視聴した思い入れを抜きにすれば、やはり時代を感じずにはいられない画質ではあるが、CGもままならない時代と環境で、ここまでの映像美と、物語の奥深さを全4話に凝縮している点が、本作の評価が高い理由である。
往年の名作映画『トップガン』へのリスペクトを含んでいる気がする本作は、そのままシンプルな娯楽映画のようにも楽しむこともできる良作である。
マクロスを知らない人には、少し話の筋がわからない部分もあると思うので、概要くらいは知っておいた方が、より楽しく視聴できると思います。
個人的な意見としては、『CGはCGらしく使う』ということに特化した映像演出は、なんでもできてしまう昨今の表現手法より創意工夫がみられるので、自身の中のささやかな創造性を刺激してくれる逸品である、と言えます。
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◆Vol.1とVol.2があります。菅野よう子ファンなら聞いておくべき作品でしょう。