◆評価:★★(39)
TITLE | MEZZO -メゾ- |
DATA |
2004年 |
STORIES | 全13話 |
目次
◆あらすじ。
現代より少し未来の東京―――
テクノロジーの進歩により、
水素燃料電池やヒト型ロボットが実用化されたそんな時代。
しかし技術の進化とは裏腹に、犯罪検挙率は低下し、
失業率の上昇など社会不安は増大する一方であった。
外見は現在と変わらない町並み…だが、街は混沌の影に覆われていた。
そんな東京を舞台に、合法・非合法を問わず様々な危険仕事の依頼を請負う
危険代行業 (DANGER SERVICE AGENCY) 通称DSA を営む3人組がいた。
ブルース・リーをこよなく愛する美少女 『海空来(みくら)』
ファンキーな科学技術のエンジニア 『原田(はらだ)』
元刑事でめん類中毒のおっさん 『 黒川(くろかわ)』
雑居ビルの屋上にある事務所兼住居の改造ロンドンバスを根城とし、
「命を落としかねない依頼だけは受けない」ポリシーのDSAだが、
なぜか受けた依頼は、ことごとく命がけ……となってしまう!?
海空来のハイキックが唸り、
原田の銃が火を吹き、
黒川がうどんをすする。
…そして今日も三人の命は、風前の灯!?
◆残念な続編。
前作『MEZZO FORTE(メゾ・フォルテ)』は梅津泰臣(うめつやすおみ)監督による徹底したこだわりの映像作品となり、アダルトアニメというジャンルにもかかわらず、国内外で高い評価を得た。(詳しくは前作『MEZZO FORTE』のレビューを参照ください。)
非常に稀有な方法で制作された前作は、アダルトアニメでありながら、そのクオリティの高さからコアなファンが多く、さらに付け加えればアニメ業界内でも、高い評価と支持を得た。
よくよく考えてみると不思議な話だ。
いわゆる「よくあるエロゲ原作のアニメ作品」は、この年代にはすでに多数存在していて、それなりに市民権を得るところまで通常化していた。
だからというわけではないが、この年代くらいから原作が18禁のエロい作品だろうがなんだろうが、内容が良ければ、そんなことは些末な問題である、という風潮は確かにできあがっていた。
しかし「オリジナルなアダルトアニメ作品」の続編が地上波で制作されるというのは、後にも先にも本作だけではないだろうか?
もし他にもあったらぜひ教えて頂きたい。
この事実から言えることとしては、「オリジナルなアダルトアニメ作品」の全体的なレベルが向上していったというわけではなく、やはり梅津監督が表現の場として選んだ場所が(たまたま)アダルトというカテゴリーだったというだけの話なのだろう。
だから、他の(アダルトアニメ)作品でTV版が作られるような作品は出てこないのである。もちろん、本来のアダルトアニメの目的からして、地上波を念頭にいれているわけではないから、これを業界全体に期待するというのもお門違いというものだろう。
普通のアダルトアニメというものは、それを望んでいるニーズに対して供給しているだけなのだから、それはそれでいいのである。
話を戻そう。
個人的な視聴順で言うと、リアルタイムでの視聴では本作が先であり、後から前作『MEZZO FORTE』という作品がR-18作品として存在していることを知った。
当時、よほどマニアックに情報収集していた人でない限り、大半の人はアニシエと同じように本作から梅津監督の『MEZZO』シリーズを知ったのではないだろうか。
当時から声優の広川太一郎さんのファンであり、彼の声が聞ける貴重なアニメとしての認識しかなかったのだが、前作『MEZZO FORTE』を初めて視聴したときに、そのあまりのクオリティの高さに大興奮したことを覚えている。
それと同時に、ほぼ同時期に見比べることになってしまった本作『MEZZO』に対する評価が一気に低下していってしまったという、クオリティの差がはっきりわかる結果となってしまった。
今回レビューのために改めて観てみたわけだが、やはり評価はあまり変わらなかった。
とにかく、残念なのだ。
なにが残念か? それをこれから説明していこう。
◆できていたことができていない。
「おいメゾ! お前いったいどうしちまったんだよ!?」
前作を視聴したあとに本作を観たときの心の叫びである。
驚くべきことに、前作における素晴らしいと思える部分のほとんどが劣化している。
何よりも前作を「伝説の作品」たらしめていた華麗なるアクションの数々が、ことごとく退化してしまっているのだ。
銃を構えたらためらわずに即発射。
余計な尺稼ぎの間など一切ないスリリングなアクションシーン。
リアリズムを追求した撃たれたときの死に方など、どれをとっても異色の出来だった前作の、すべての良さが損なわれている。
物語の主軸は、様々な依頼(つまりトラブル)を解決するところにある。
とうぜん一筋縄では解決できない依頼ばかりであり、そこにアクション性が生じるわけだが、その肝心要のアクションがショボいというのは、そもそも作品の存在意義さえ揺るがしかねない大問題である。
前作にあった手に汗握るスピード感がまったく損なわれていて、もはや『アクション・アニメ』とは呼べないほどになっている。
だが厳密に言うと第1話と最終回のアクションは良くできていた。
しかし残りの11話分、まるまるアクションが0点である。
これは一体どういうことだ? 梅津監督どうしちゃったんだ!
と、思って調べてみれば、何のことはない。実際に梅津監督が担当した回が上述した1話目と最終話だけなのである。
残りは他の人が監督しているのである。
凄いなあ。監督が違うだけでこんなにアクションって差が出るんですね。
ほんとに良い見本というくらいアクションがダメダメです。
勉強になりました。
◆良い点も、もちろんある。
ある作品を観たときに「残念だなあ……」と感じることがあったとしよう。言い換えればそこに多少は良い点があるからこそ、もったいないという気持ちから「残念だなあ」と感じるわけである。
つまり本作も「まったくダメ」な作品ではなく、(前作が良すぎたが故に)「残念」な作品となってしまったということだ。
ということで前作『MEZZO FORTE』よりも良くなったかな? と思える部分を紹介していこう。
まずは故・広川太一郎さん演じる黒川というキャラの面白さが挙げられる。ハードボイルドの世界に喜劇的要素が追加される貴重なキャラクターであり、存在感のある声(と、軽快なアドリブ)が相まって、良い雰囲気を醸し出している。
個人的には、本作の黒川がキャラクターとしては完成形であるような気がしている。
毎回登場するたびに様々な麺料理を食べるという、無類の麺好きキャラとなっているのだが、この麺料理の数々がなんとも美味しそうである。
軽妙洒脱なキャラクターを演じる広川さんのアドリブもまた楽しい。広川さんの演技を観たいという意味では本作も充分アリな作品となるでしょう。
ヒロインである海空来(みくら)の決め台詞。これも本作の方が記憶に残りますね。
「弱気じゃ晩御飯にありつけないよ」
知人が悩んでいたら思わず言いたくなっちゃうセリフです。
そして今回レギュラーメンバーとして加わった小学生の五十嵐あさみ。
本作は全話を通じて、引っ込み思案だった少女・五十嵐あゆみが成長していく物語でもある。そのおかげでTV版の1クールという時間を有効に使ったエッセンスとして、楽しみ方に幅ができたのではないだろうか。
反面、前作のような殺伐とした世界観が薄れていってしまったが、今度はその部分にファンタジー要素を加味していくことでバランスをとるようにしている。
どういことかと言うと(前作では考えられなかったが)登場人物に幽霊や宇宙人といった要素が盛り込まれているのだ。
個人的には、そもそもアクションが物足りない仕上がりになっているのだから、多少の奇妙な味付けも、いまさらどっちでもいいかな、という感想しかないのだが、やはりコアな前作ファンには、とうてい受け入れられない設定であろう。
そういえば、当初の設定で存在しているはずの「ヒト型ロボットが存在する近未来感」の影がかなり薄い。
あれこれ良いところを探そうと頑張ってみたが、何かひとつ見つけると、やはりその反対部分の粗が目立ってしまいますね。
うーん、やっぱり残念だなぁ。
◆声優について。
主要キャラクターの声優さん、つまり海空来役のこたにともこさん、黒川 健一役の広川太一郎さん、原田 智久役の山崎たくみさんについては前作『MEZZO FORTE』のレビューを読んでもらうとして、今回は豪華なゲストキャラの声優さんを紹介していこう。
まずは、准レギュラーともいえる「チョキチョキマッチョ」を演じたチョーさん。
通称「ハサミの麦ちゃん」。本名は(wikiで知りましたw)麦山千代奇(むぎやまちよき)というふざけた名前です。
笑える本名とは裏腹に非合法集団「ブラックシザーズ」の代表である。
普段は呑気に床屋を営んでいるが、裏の顔はとても恐ろしく、得体のしれないキャラクターにぴったりの演技はさすがですね。
この「チョキチョキマッチョ」が存在しているおかげで、本作にまだヴァイオレンスな緊張感がかろうじて残されたともいえる貴重なキャラクターでもある。
利害が一致すれば味方になるし、逆もまた然り。できればもう少し「ブラックシザーズ」絡みのエピソードがあってもよかったのになあ、と思えるほど良いポジションだと思いました。
ちなみに「チョキチョキマッチョ」と呼んでいるのは海空来だけである。
次に麻碑斗(まひと)役を演じた石田彰さん。
『エヴァンゲリオン』の渚カヲル、『ガンダムSEED』のアスランなど、正統派イケメンキャラ役が定着してますが、ゲストキャラだと歪んだサイコ系なイケメン殺人鬼を演じることが多いですよね。
本作でもナルシストな連続殺人犯を演じています。
その他、悪堂(あくどう)役の二又一成さんも、好きな声優さんですね。
『めぞん一刻』の五代裕作、『機動警察パトレイバー』の進士幹泰など、サンデー系が好きな人はご存知の声優さんである。
アニシエ的お気に入り声優さんはこれくらいですかね。
基本的に1話完結のエピソードなので毎回ゲストキャラが登場します。
しかもかなり豪華なキャスティングであり、話の内容はともかくとして(悲)企画段階での意気込みが伝わってくるかのような配役ですね。
◆総評。
ここまで散々書いてきたことだが、一言「残念である」としか言いようがない。
アクション主体の作品で、そのアクションがないがしろにされては、視聴者はなにを愉しめばいいのかわからなくなってしまう。
アニシエのように好きな声優がキャスティングされているからという理由で(頑張って)観れる人や、一部のコアなファン層にはいいかもしれないが、事情がまったく理解できていない人が観るのは、ちょっとつらいだろう。
実は原作・監督を担当した梅津泰臣監督は本作を作り上げたときに、このようなことを言っている。
「規制が厳しいことは理解していたが、頭を押さえつけられた形で作品を作らざるを得ないときもあり、前作のような過激な性描写とガンアクションのバランスをとるのにも苦労した」
引用元ウィキペディア「MEZZO -メゾ-」より。
性描写については、どこまで監督が本作で描きたかったのかわからないが、何にせよ過激な表現には厳しい規制がついてまわったということに変わりはないだろう。
じっさい本作で「これは……」と思わせるほど刺激的なお色気シーンは記憶にない。
その反面「これはかなりエグい」と思えるほど迫ってくる迫力もなかった。
どれだけ素材が良かろうと、毒気を抜かれてしまえば刺激は少なくなってしまうものだ。
そして、そんな毒気を抜かれた作品を欲している人が梅津監督の『MEZZO』シリーズを観たいと思うわけもなく、規制のギリギリまで戦おうとしなかった制作管理陣営の尻込みが、この作品を並以下の残念無念な作品へとしてしまったのかもしれない。
梅津監督が、本来であればどこまで攻めていこうと思っていたのかは定かではないが、せめて全話のアクションが迫力あるものであってほしいということくらいは願っていたはずだ。
いったい、誰のどんな采配によって、このように良作を貶めてしまうのか。
そんなことまで考えが及んでしまうほどに、うーん……残念でしたね。
もしかしたらさらなる続編が(メディアを変えて)作られるかもしれなかった作品なのだが、梅津監督が敬愛してやまない広川太一郎の逝去により、彼の代役は考えられないとのことで続編の制作を断念したそうだ。
普通は作品ありきで声優が決まるものだが、このように声優がいなくなったために作品が作れなくなることもあるのだということは、勿体なくもあるが、素晴らしい潔さとこだわりである。
声優という職業をひとつ上のステージへ押し上げた広川太一郎さん。
そんな彼の自由な台詞回し、いわゆる「広川節」を聞きたい人にはおすすめの一品である。
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