FILE:055 異国迷路のクロワーゼ The Animation

◆評価:★★★(45)

TITLE

異国迷路のクロワーゼ The Animation

(いこくめいろのクロワーゼ・ジ・アニメーション)

DATA 2011年
STORIES

全12話+未放映1話

 

◆あらすじ。

私ハ…このギャルリの家族にナリタイ。

19世紀後半の仏蘭西(フランス)、巴里(パリ)―。
近代化の流れに取り残された小さな商店街(パサージュ)、ロアの歩廊(ギャルリ・ド・ロア)に、ある日、小さな日本の少女が足を踏み入れました。

少女の名前は湯音(ゆね)。

長崎から一人、パリへ奉公にやってきたのです。
全く違う異国の文化や慣習に戸惑う毎日。

それでも一生懸命な湯音は、鉄工芸品店「ロアの看板店」で働きながら、若き店主のクロード、そしてパリの人々との温かな出会いを通じて、一つずつ、文化や言葉の違いを乗り越えていくのでした。

優しい日差し差し込む、この時代遅れな商店街に迷い込んだ日本人形(ジャポネーズ)。
いつか、ギャルリの家族になれるよう、湯音は今日も奉公に励みます…。

 

※引用元『異国迷路のクロワーゼ』アニメ公式サイトより。

<mediafactory>より。

 

◆広義の意味で『日常系』。

本作は武田日向さんによるマンガ原作のアニメ化である。

 

舞台は19世紀のパリ。日本から単身フランスへやってきた少女が湯音(ゆね)が、パリの人々との交流を通じて、文化の違いや価値観の相違などで戸惑いながらも、日々成長していく様子を描いていく。

 

ちなみに原作マンガは2017年に作者死去のため、未完となっている。

 

ご冥福をお祈りします。

 

日本とフランスの異文化が交わる、という意味でもクロワーゼ(=交差点)というタイトルにはセンスを感じさせてくれます。

 

第1話冒頭で、湯音が晴れ着姿でパリの街に現れるシーンは、素晴らしくキレイに演出されている。

 

石造りの町並みは、基本的に色彩を欠いていて、どこかどんよりした印象を受ける(ように描かれている)。

 

これは当時のパリが決してきらびやかなだけではなく、人口増加に追いつかない都市インフラの未整備からくる疫病の伝染などが深刻化していた時代背景を表現している……

 

……のかどうかはわからないが(おいっ)、

どこか停滞気味なパリの社会に一陣の美しい風のように着物が翻るさまは、なかなかに美しい。

 

19世紀のパリについて、どこまで時代背景をリアルに構築しているのかはわからないが、その風土と人々の気質については、歴史学的には、あながち間違っていない描写がきちんとなされている。

 

例えば、ヒロインである湯音がパリの街並みに徐々に馴染んでいく過程。

 

パリの文化そのものに「異質なものを受け入れる」という多様性や開放性が発達していったのも、この時代あたりからだった(はずだ)。

 

とはいえ、まったく異なる世界観で暮らしていた日本人である湯音が、パリでほんとうの意味で生活していこうとするには、様々な問題と直面していく必要がある。

 

パリでの保護者であるオスカー。その孫であるクロード。

 

二人が営む鉄製の看板を作る店「アンセーニュ・ド・ロア」を中心にして、湯音はパリの風土に触れ、ささやかな幸せを求める人たちとともに、生きていく。

 

『日常系』と言うほど、毎日が同じ展開ではない。コメディの要素も少ないし、物語全体は緩やかに進んでいく。

 

でもまあ、アクション冒険活劇のように、矢継ぎ早に進行していくわけではないので、やはり広義な意味では『日常系』として楽しんでよい作品ではないでしょうか。

 

◆随所に感じられる丁寧な描写。

本作のエピソードは原作を丸々描いている(全2巻)

 

原作がマンガの場合、平均して1クールの中に5~10巻くらいの内容で作り上げることが多い。

 

この平均値を考えると、本作がどれくらいゆったりとしたペースで丁寧に描かれているのかよくわかります。

 

フランスの街並みと見事にマッチしているBGMや、さりげないSE(効果音)のひとつひとつが丁寧に入れ込まれているのが、耳に心地いいです。

 

ドアの軋む音、馬車が石畳を走る音などなど、必要以上に主張は強くないけれど、風景の一部としてきちんと音に存在感のある作品です。

 

激しく展開するシーンが少ないだけに、余計に生活の音に気を配っているのかもしれません。

 

映像自体も、ゆるやかなカメラワークと陰影を強調したライティングのこだわりが素晴らしいですね。

 

このゆったりとした感覚は『ARIAシリーズ』に共通するなあ……などとぼんやり思っていたら、調べてみてビックリ。

 

シリーズ構成に『ARIAシリーズ』を監督として手掛けた佐藤順一さんが起用されているではありませんか。

 

なるほど、まったり視聴できるわけである。

 

 

◆声優について。

ほんのちょっとだけ、ご贔屓の声優さんだけご紹介。

 

ちょい役ですが中島愛さんがアンヌという役柄で登場してました。アニメオリジナルのキャラクターであり、日本の曲を弾きながら旅をしているボヘミアンという設定です。

 

シンデレラガールである彼女が活躍しているのは微笑ましいですね。応援しております。

 

シブい声優好きとして外せないのは田中秀幸さんですね。オスカー役を演じていましたが、個人的には『機動戦士ガンダム』ウッディ・マルデン大尉と言われたほうがピンときます。

 

え? ピンとこない? おかしいなあ……マチルダさんのフィアンセですよ?

 

◆総評。

「異国迷路」というように、ヒロインである湯音が文化の異なる国フランスで生活することは、まさに迷路の中で生きていくようなものだ。

 

湯音の行動原理について、日本人なら当然のこととして理解できるものなのに、パリの住人であるクロードには異質にしか思えない。

 

祖父であるオスカーから、事あるごとに日本人やその文化についての説明を聞いたとしても、やはり急には自分の価値観を柔らかくすることはできない。

 

そんなふたりが人生の迷路で葛藤しつつ、なんとか互いの道の中で「クロワーゼ(交差点)」を見出していく物語である。

 

「きっと原作者は、はるか昔の日曜日に放映していた懐かしの『ハウス名作劇場』をやりたかったに違いない」と、観ていてふと思った。

それくらい性善説に満ち溢れている世界観なのである。

 

エピソードのオチが先にわかってしまう部分が多々あったものの、それを踏まえてなお、ゆっくりとリラックスした時間を過ごしたい、という人にオススメの作品である。

 

原作が未完なだけに、次回作が制作される可能性は低いでしょう。残念です。

 

 


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