FILE:036 フリクリ(FLCL)

評価:★★★★(78)

TITLE フリクリ(FLCL)
DATA

2000年

 

◆あらすじ。

小学6年生のナンダバ・ナオ太は、当たり前の日常に辟易しながらも、普通であることを望んでいた。アメリカへ野球留学中の兄・タスクの元恋人であるマミ美から真意の掴めない誘惑をされ、マミ美の傍にいつもいることを決意していることもあり、それを流されるままに受け入れている。

そんなナオ太の前に突然現れた謎の「ベスパ女」。本名はハルハ・ラハル。自称19歳の「宇宙人」。彼女の所持する所持するベースギターで殴られてから額に奇妙な角が生え、そこから様々な物が出てくるようになってしまう。

平凡な日常は一変し、毎日がジェットコースターのように加速していく。
宇宙人、謎のロボット、謎の組織フラタニティ、謎の企業メディカルメカニカ、そして海賊王。

物語のすべてに意味があると思ってはいけない。

 

※『Wikipediaフリクリ』より加筆 

 

◆最も説明が難しい作品のひとつ。

この作品を端的に説明しろ、と言われて上手にまとめられる人は、おそらく天才である。

 

「説明できるほどではないが、なんとなく、おぼろげに作品全体の雰囲気は感覚的に理解できる」
という人は、おそらく本作を楽しめるタイプの人である。

 

「なんだこれ? まったく意味がわからない。設定とか世界観とか意味がわからないんだけど」
という人は、おそらく本作を楽しめなかった人である。

 

『フリクリ』という作品において、疑問に思う部分について執拗に意味を求めてしまう人は、けっきょく何も分からないまま終わるエンディングに失望しか感じられないのである。

 

最終話で感じられる、ある種の爽快感は、本当に感覚的なものである。

 

ブルース・リーの名言。「Don’t think, feel. (考えるな。感じろ)」の世界なのである。

 

逆説的に言うと、理屈抜きな爽快感を感じられるかどうかで、この作品の評価は高くも低くもなるということだ。

 

◆すべてがロック。不安定な面白さ。

GAINAXの作品としては『新世紀エヴァンゲリオン』以降における待望のオリジナル作品である。

 

OVA全6巻で発売され、パッケージには作品概要やあらすじなどを一切記載せず、また宣伝などでも内容に触れることをしなかったという、かなり尖った売り出し方で、当時のアニメ業界を賑わしていた。

 

当時はレンタルビデオで視聴してみたが、やはり最初の感想は「いったいこの作品は何が言いたいんだ?」という疑問であった。

なにとなにが伏線で、どれとどれが単なるネタとしてのシーンなのか? それすらも判然としないまま最初期の視聴は3日間という制限付きで終わることとなる。

 

貧乏学生だった当時は、手元に買い揃えるなどという余裕もなく、そして次から次へと面白そうなタイトルが店頭に並んでいく状況であったため、評価は「よくわからないけど、面白かった」というものに留まった。

 

「よくわからない」けど「面白い」

 

この感想は、実は今でもほとんどそのまま変わらない。

 

しかし、それはそれで凄いことではないだろうか。

 

多感な10代に視聴した作品の感想が、オッサンとなった今でもあまり変わらない。

 

それは単にアニシエが成長していないだけなのでは? と言われてしまえばそれまでだが。

 

たとえば作品の骨組みを透かし見て、その手法に対するこだわりなどを自分なりに解釈して説明することは、オッサンとして経験を積んできた今なら可能である。

 

しかし、その解説がはたして面白さを伝えることとイコールになるのか? 

と言われれば、やはり答えは「NO」である。

 

どれだけ説明しても、「最後はなぜかスカッとする感じで、いい感じなんだよ」という曖昧な表現へと立ち返ってしまう。

 

とつぜん『サウスパーク』のパロディをしてみたり、マンガ調のコマ割り画像をカメラが移動していくような、奇抜な映像にしてみたりと、その自由奔放さは、まさに変幻自在である。

 

では、なぜ突然そのような絵柄を変化させてストーリーを進行するのかというのと、どう考えても「なんとなくノリで」やっているようにしか思えない。

 

もしかしたら、とても深遠なメタファーが存在し、それを伝えるべく急な絵柄の変更を行っているのかも知れないが、そのようなことに言及しているコメントや解説などは世に一切出ていない。

 

これら自由な発想と、視聴者の評価などまったく気にしないテイストで表現されている世界観そのものは、音楽に例えれば古き良き時代のロックンロールである。

 

他人の意見など気にしない。やりたいことを全力である。それを面白いと思うなら勝手に観やがれ。

 

全編通して視聴者に訴えかけられているのは、こういった尖ったメッセージのように感じられてならない。

 

作品にマッチした『the pillows』のテーマ曲と劇中に流れる挿入歌が、このロックなテイストをさらに強めている。

 

まったく先の読めない展開(これがまた読めるようで読めない)という不安定さと、何をしでかすかわからないというロック音楽の根底にあるアナーキズムが見事に噛み合っているからこそ、『フリクリ』の不安定さからくる面白さというのは体感として知覚されていくのではないか?

 

既存のアニメにおいて、安定感というものは、良作であればあるほど深い芯の部分でゆらぐことなく存在している。

 

どれだけ主人公がピンチになろうとも、最終的には絶対に勝つ。

 

誰も結末は言わないが、僕らはだいたいの作品において、この絶対条件を無意識に知覚して(あるいは信奉して)物語を観ていく傾向がある。

 

ものすごい絶望的な状況でスリリングな展開になろうとも、

「さあ、ここからどう大逆転していくんだ?」
という、必ず勝利(又はハッピーエンド)へ向かうための急上昇を期待する。

 

これが安定的な面白さであり、それ自体は否定されるようなモノではない。

 

むしろ、そういう娯楽活劇を観たいわけだし、そこまでの経緯においてどれだけ意表をつくか? あるいはリアルな心理描写でみせていくのか? といった各作品の味付けを楽しむことが一般的な作品である。

 

しかし、本作では「そもそも、なにがどうなれば大団円なのか?」という焦点すら覚束ないままに物語が終わりをむかえる。

 

それなりのカタルシスもあるのだが、やはり感覚的以上の爽快感しかない。つまりすべてを理解してすっきりするような感覚は得られないのである。

 

この宙ぶらりんな状態であるにもかかわらず面白い、と評価できるという不安定さ。

 

言い換えれば『フリクリ』は不安定な感覚の面白さを追求している作品だとも言えるのではないだろうか。

 

まさに尖ったロックンロールである。

 

◆声優問題。

様々なレビューサイトで酷評なのが声優のキャスティング。

 

素人のような棒読みで作品に傷をつけている、という意見が多い。

 

個人的には世界観にマッチしている違和感のひとつ、として捉えることができるのではないかと思っている。

 

演技がうますぎる声優さんを起用すると、それだけで独自の世界観(作品の概念化)を視聴者に植え付けてしまう場合がある。

 

ジャンルやテーマがはっきりしている場合はそれでいい。

池田秀一の声を聞けばシャアを連想するように、個性や演技力のある声優さんは、作品を安定化させるために不可欠である反面、不安定な面白さを追求する場合には足かせとなってしまう要因ともなりうるのだ。

 

棒読みのような芝居。芝居のような棒読み。そう感じられる聞き慣れない声。

 

それらもまた『フリクリ』の世界を不安定にしている一因である。

 

本作は安定的な面白さを追求している作品ではない。だからこその配役だと考えれば、一理あるような気がしてくるではないか。

 

……しませんか?

 

◆意味がわからないという意味について。

設定などは小説版を読むと、きちんと設計されているのがわかる。

では、きちんと設計されている世界観について、ほとんど言及されていない本作は面白さ半減なのかと言われれば、アニシエ的見解では「そんなことはない」と断言する。

 

むしろ、小説版を読んで感じたのは、設定についての解説がそもそも作風にとって蛇足にしかならないんだな、という妙な納得感である。

 

普通の標準的なアニメ作品であれば、設定や世界観についてあやふやな部分があると、どうしてもその部分が心に引っかかってしまし、調べてみないと気がすまないという状態になる。

 

そして、問題の部分についてすっきりとした説明があれば「最初からわかりやすく演出すればいいのに」と思うし、逆に情報がなにもない場合は「作り込みが甘いんじゃないの?」と言ったように、どちらにせよ、粗がみつかった時点で評価が下方修正されることが多い。

 

「ああ、こんな設定があったんだ。でもまあ作品自体(の面白さ)にはあまり関係ないな」
と達観して言えてしまえる作品は『フリクリ』』以外ではちょっとすぐには思いつかない。

 

◆エヴァンゲリオンとの対比。

『エヴァ』は謎が解かれていき、色々なことが判明していくのだが、結局の所、なにがどうなっているのかよく分からない。

 

本作『フリクリ』は、そもそもまったく意味がわからないんだけど、しっかり観ればちゃんと筋が一本通っている。

 

だからこそ意味がよくわからないのに、すっきりとした爽快感が味わえるのだ。

 

逆に『エヴァ』では、どれだけ設定資料集を読んでも、次から次へと新作が作られていき、設定がそのたびに飛んでいく。

 

じゃあ今度は何が言いたいんだ? と視聴者が堂々巡りをしてしまう作品となっている。

 

『エヴァ』と対極に位置する作品であり、もしかしたらそれを意識して作られているのではないか? と邪推してみたくなるほど両極端ではないだろうか。

 

しかし庵野秀明監督作品ではないのだから、考えすぎかな……と思っていたら、なんとDVD-BOXにて庵野秀明が監修していたことが明かされる(※クレジット上は無記名)。

 

ということはやっぱり対極として……と思考はいつまでもグルグルと回るのであった。

 

◆総評。あまり多くを語れない。

タイトルも、内容も、意味はほとんどない。

 

そんなことは関係ない。

 

世の中楽しまなきゃ損するぜっ。それがロックだろ?

 

というのが、おそらく本作で最も伝えたかったテーマである(と思う)。

 

緩急自在のストーリー展開とカット割はガイナックスの真骨頂といった感じである。

 

浅いようで深みのある人物描写。それぞれが弱く、そして強い。人間とは基本的に多面性の生き物であるということをよく理解した上で描かれている。

 

全6話のOVAだが、どのエピソードも劣化することなく最後まで超特急で爆進する。

 

単純に面白い、の一語に尽きる。

 

これだけ訳がわからないように作品を仕上げることは非常に難しいと思います。

 

世間には、単に力不足による意味不明な作品となっているものは多々ありますが、ここまで綿密に主要なテーマを前面に出すことなく最後まで作り上げるということは、並大抵のセンスでできることではないでしょう。

 

誰だって何かを作るときには『最も注目してほしいところ』があるはずなのに、本作では(おそらく)『注目してほしいところ』以外を、あえて全力で作り込んでいるような面がある。

 

だからこそ一級品のエンターテイメントでありながら、観るものを選ぶという凄まじい作品へと昇華されていったのだろう。

 

古今東西、多種多様なアニメに触れている人で、まだ観ていないという人であれば、アニシエはこう言うでしょう。

 

全力でオススメします。

 

とにかく、色々な人に観てもらって色々な意見を聞きたくなる作品です。

 


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